22.ネレイド

「あ。カメだ」


 砂浜沿いに歩いているとき。


「カメ?」

「旨いんだよ、カメ。まてー! カメー!!」


 ネレイドが。カメを見つけると、突っ走っていってしまった。


「アルバド。ネレイドのこと、よろしくな」


 昨晩。ザクレスというネレイドの兄に、そう言われた。


「どうやら、一目惚れらしい。あいつ、今まで同族の男には全く興味を示さなかったのに。君を見つけたとたんに、興味津々。女の子ってのは分からんもんだな」


 もう一人の兄、アッゼンにも言われた。


「ネレイドも、子供だ子供だと思っていたが。いつの間にか恋をするような年頃になっていたんだな。結婚するかどうかはともかくとして。優しくしてやってくれよ、俺たちの大切な妹なんだから」


 そんなことを言われたんだけど……。俺には実は。意味がよくわかっていない。ただ、漁村にいる間に気が付いたことが一つあった。


 俺の体は、いつの間にか相当に大きくなって来ていたんだ。

 ネレイドの話によれば。普通に考えて、帝国大陸からの漂着物が魔大陸に流れ着くのは潮流の関係もあって、何年かに一回あれば多い方らしい。

 それまでは、海の中で水の流れに翻弄されて。ひたすら流されている状態らしい。


 俺は、自分が何なのかわからなくなってきた。記憶を失っているだけで、実は船に乗っていたのか? しかしそれにしては、体に刻まれた経過年数が合わない。しかし、何年間も海の中で。何も食べずにここまで体が育つのもおかしい。

 もう、意味が分からない。


 無理やりに筋を通すとすれば。

 記憶を失ったままで、海獣のように。海の獲物を食べて、生きていたということ。

 そして、この魔大陸に打ち上げられて。


 ネレイドに話しかけられた時点で、人としての記憶がつながったという筋だ。


 しかし、これだって無茶苦茶な事には違いない。

 ……俺は、人間なのか?


   * * *


「はい、焼きガメ串」


 ネレイドが、ししっ、と笑いながら。焚火の周りで炙っていた串に刺したカメ肉を渡してくれた。焼き加減がちょうどよく、香ばしい香りが食欲をそそる。


「食べてみて、アルバド。美味しいから!!」


 目を顔をキラキラさせてそう言うネレイドには失望をさせたくなかった。俺は、串にかぶりつく。


「……旨い……」

「でしょ? あたしも食べよっと!」


 なんだか、すごく嬉しそうに。串にかぶりつくネレイドを見ていると。

 自分のギスギスした過去の思い出が、少しづつ解きほぐされていく。


 そんな感じがして、この子は大切にしたい、と。

 そんなことを思ってしまった。


   * * *


「さて、アルバド。山登りに自信はある?」

「ゴミの山になら」

「? 何それ?」

「いや、何でもない」

「あそこに、山が見えるでしょ? あそこの八合目の祠に、賢者って呼ばれてるじっちゃがいるんだけど。いろんなことを知ってるから、アルバドが聞きたいことを何でも聞くといいよ」

「そうだな……。わからないことだらけだから、そうさせてもらうよ」

「あたしも付き合うよ」

「なんで? 場所さえ教えてもらえれば、一人で行けるよ?」

「ふんっ!!」

「ぐはっ!!」


 俺が一人で行く、というと。ネレイドは俺の腹に掌底を撃ち込んで。


「あたしも行くの!!」


 拳をぐっと握って、なぜだか宣言した。

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