第16話 自転車練習!
「……おっそい! 10分も遅刻とか」
「うわわっ、ご、ごめんなさいっ!」
そもそも今日はこんな予定じゃなかったからね? しばらく使ってなかったわたしの自転車は、まずサドルやハンドルの水拭きからしなきゃいけないわけで。カギはどこだっけ、とか、サドル低くない? とか、空気入れなくちゃ、とか、家族みんなで大騒ぎだったんだから!
「で、なに。チャリは」
「それが……」
そう。結局わたしは公園に自転車を持ってきていない。だって。
パンクしてたんだもん。
「はあーーー」
わかりやすく残念そうにしないでよね。
「……それウソじゃないよね」
「さすがにそんなわけないよ!」
し、失礼なっ!
翔斗くんは「待たせて本当にごめん」と頭を下げるわたしをため息混じりに見てから停めてある自分の自転車にその目をやった。……え?
「貸してやるから。それ乗れば」
「へ!?」
思ってもない展開にどんどん進んでもう付いていけない。
「ほら、またがって」
「力いっぱい漕ぐ」
「前向いて」
「漕ぐ! 漕ぐ! もっと漕ぐ!」
いつか振りの自転車練習は……。
「離すよ!」
「うそ! むりむりむりだってばあ」
──ガッシャアアアーーーンッ!
やっぱり全然だめだめでした。
「ひいいん。いったああーい……」
カラカラカラ、と倒れた自転車の車輪が空回りする。
「まあこうやって練習するしかないから」
「くう」
はあん。情けない。恥ずかしい。痛い。それから、暑い!
「ね、暑くない? や、暑いよね!?」
「ああ」
「ね、暑いよ!」
「うん」
「暑い!」
「うっさいな、わかってるっつうの!」
やろうって決めたのが朝の9時だったでしょ? で、開始が10時すぎ。今が10時半。知ってる? 午前中の日差しというのはだんだん強くなるのです!
暑いよね!? 暑いに決まってるよね!?
ていうかこんななか自転車練習とかしちゃだめだよ、死んじゃう! 公園にも誰ひとりいないもんっ!
近くの自動販売機でスポーツドリンクを買って揃ってごくごく飲んだ。
「ああああ、生き返るううう」
「午前中ならマシだと思ったんだけどな」
「全然むりだよ、死んじゃうからほんと」
「だな」
「やっぱ秋まで待ったほうが……」「いや」
翔斗くんはじろりと横目にわたしを見る。な、なにさ。また先送りにしようとして、って? だけどこんなの命の危険レベルだよ?
「秋になると公園は人が来るっしょ」
「えっ……」
「やれる? その中で」
ああ……そうだね。
わたしは答えずにスポーツドリンクのペットボトルに視線を落とした。青色のラベルは中身の冷たさで水滴がたくさんついて濡れている。
「嫌だろーな、と思ってさ」
はっとして思わずその目を見た。翔斗くんって……。意外とそういうところがあるんだ。『意外と』なんて言ったら怒るかもしれないけど。
お礼を言うべきか、せめてなにか反応しなきゃと迷っているうちに「そうだ」と話が変わってしまった。
「うち来てよ。これから」
「へ」
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