マジシャンから悪役令嬢に転生したけど病弱主人公に一目惚れしたので攻略対象男子どもを追放します!!

司丸らぎ

第1話 悪役令嬢に転生したようです。

前世では売れないマジシャンをしていました。

二十半ばで死んでしまいました。

まぁ、ぱっとしない人生ではありました。

しかし、この度、めでたく生まれ変われることになりました。


「じゃあ、あんたの次の人生は悪役令嬢ね」

「はい?」


天国っぽいところで、神様っぽい人からそう告げられた。


「転生する場所は中東っぽい国だ。そこの国立病院の娘に産まれることになる。まぁ、お嬢様だな」

「なる、ほど……?」


神様っぽい人から面倒くさそうに言われる。

向こうとしてはよくある事務作業なんだろうが、こちらとしては第二の人生がかかっているから、もう少し真剣に向き合ってほしい。


「まぁ、前回の人生の舞台とそんな変わらないから問題ないだろ」

「そう、なんですか?」


いい加減な決めつけをされて不安しかない。


「ちゃんと人間だし、ファンタジー要素もないし、苦労することはないだろ。転生した先でのおまえの名前はサリネだ。向こうの母親から説明してくれるだろ」

「はぁ…………」


サリネね。どこの国の言葉なんだろう? 日本ではなさそうだけど。


「それから、悪役令嬢としての人生はまっとうしてもらいたい」

「悪役令嬢としての人生?」

「おまえが18歳になったときに、病院にターヤという女の子が入院してくる。その子を虐めてやるのだ」

「転生後の私の生きる意味って、女の子を虐めることなの?」


やたらと性格の悪い人生を生きなければいけないらしい。


「得意だろ?」

「得意なわけあるか!!」


前世でも虐めなんて関わったことない。


「というわけで、よろしく」

「え!? これで説明終わり?」


わたしの足元に穴があく。


「いってらっしゃい」


神様っぽい人に手を振られる。わたしは穴の中に落ちていく。

気付いたら、転生していた。


「おお、サリネ。もう歩けるようになったのかい?」


1歳になった頃、意識がはっきりとするようになった。

わたしの名前はサリネ。中東っぽい国の、国立病院の娘。父親と母親に何不自由なく育てられた。

売れないマジシャンとして生きた前世とは大違いだ。

買ってほしいものは何でも買ってくれる両親。

わたしが誘えば何でも乗ってくれる友人達。

産まれのスペックのせいか、勉強してもスポーツをしてもなんでもうまくいく。

ああ、なんて楽しい青春の日々。

この人生が終わって、次に転生するときもこのサリネのような人生でいたい。

そんなことを思って過ごしたサリネとしての18年間だった。


「明日、病院に来てくれないか?」


ある日、父に言われた。


「良いわよ」


わたしは二つ返事で答えた。

このときわたしは18歳。将来は親を継いで医者になろうかどうしようか考えている時期だった。

親もそのことを知っていて、よく病院の職場見学をさせてくれる。


次の日、わたしは学校帰りに、国立病院に寄った。

そのとき、病院内で気にかかる名前を見かけた。

病室の前にかかっている名札。

そこに書かれている名前。


「ターヤ」


わたしは思い出した。その時まで忘れていたが思い出すことができた。

ターヤという名前を思い出すことが出来た。

転生する前に神様っぽい人から聞いた名前。

そうだ。このサリネとしての人生は、このターヤを虐めるためにあったんだ。

別に会ったこともない女の子を虐めたいとも思わないけど、この人生は悪役令嬢としてのもの。

神様によろしくと言われた手前、無視するわけにもいかない。


わたしは意を決して病室の扉を開ける。

さてさて。わたしが虐めないといけない相手はどんな顔なんだい?

わくわくして病室のベットにいる女の子を見る。


「え?」

「え?」


相手の女の子はわたしの顔を見て驚いていた。

それはそうだろう。

いきなり知らない人が自分の病室に入ってきたら驚くのは当たり前。


でもわたしは彼女以上に驚いていた。


胸元まで伸びたブロンドの髪。黒くてつぶらで大きな瞳。向こうが透けそうなくらい白い肌。小さくて摘まめそうな鼻。血色の良い唇。


「……可愛い」

「え?」


めっちゃ美少女だった。

え? 何? どっかのお姫様? こんな可愛い人類が存在して良いの?

どんな徳を積んだら、こんなにぶっちぎりの美少女になれるの?

やばい。やばい!

心臓の高鳴りを抑えられない。


「あ、ああ……」

「あ、あの……、どちら様?」


美少女ターヤは困惑した顔をしていたが、そんな顔も可愛い。

そして声も可愛い。

ウグイスが鳴いているかのような綺麗な高音。

わたしはベットに座っているターヤに近寄って、手を握りしめた。


「結婚してください!」

「へっ!?」


あまりの美少女っぷりの前にわたしは屈服していた。

これはもう結婚してもらうしかない。


このターヤを虐めないといけないことなど、頭のゴミ箱に捨て去った。

わたしは、この美少女のために人生を捧げる。

ターヤのためにここに産まれてきたに違いない。

そう思わせるほど、そう狂わせるほどの魅力がターヤからあふれ出ていた。


「キスして良い?」

「だ、あ、ダメです!」


さすがに嫌がられた。

でも良い。そんな顔も良い。何から何まで良い。


悪役令嬢としての使命は忘れ、ターヤのための人生がここから始まった。


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