第二話:宇宙猫と魔法①


 自称宇宙からの来訪者。

 宇宙猫であるエイブラハムの話はこうだ。


 曰く、彼あるいは彼女は宇宙の果て、遠き銀河の果てからやってきた宇宙生命体である。

 エイブラハムはとある事情で故郷を追われ、そしてこの地球に辿り着いた。


 別に目的があったわけではなく、一先ず身を隠すために降り立とうとしたところ――地表に降り立つまでの間、無防備になる瞬間にと衝突し重大なダメージを受けエイブラハムは甚大なダメージを負って墜落した。

 元より弱っていたところに想定外の損傷を受け、成体的な活動の危機――即ち、死に直面したエイブラハムは固有の能力を使用した。


 エイブラハムには生命体の情報存在へと「擬態」する固有の力があるらしい。

 その力を使うことにより、現住生命体へと擬態することで緊急避難的に死を回避しようとそう考えた。


『不正確。考えた……と言うのは語弊がある。我は必死だったのだ、不意に訪れた死という終わりに対し、ただ闇雲に回避しようと自らの肉体を擬態能力を使って再構築することにより回避しようとした。……ハムハム』


「その時に擬態した現住生命体というのが――その子猫の姿だったというわけかー、バリバリ」


「おまっ、スナックなカスをベットにこぼすなよ。払えばいいという問題でもない!」


「いや、それよりこの新作意外とイケるからさー。食ってみ?」


「ほんとか? ……あっ、わりと好きなやつだ」


 ハムハム、バリバリやってるのは話が長くなりそうだったので、ちょっと待ったコールをして用意した菓子やジュースの類だ。

 猫用の食べ物は昨日買ったとりあえずの分しかなかったため、エイブラハムが大丈夫ということなので弌華が出した普通の食べ物だ。


 どうにも単に腹が減っているというだけでなく、「食事」という行動そのものに興味津々なエイブラハムは、弌華が用意した菓子に手を出し続けながら話を進める。

 

 エイブラハムの声は全方位から聞こえ、あるいはどこからも聞こえない不思議な声だ。。


 脳内に直接語り掛けるような感じで、男性的な声であるようなそれでいて女性的な声であるような……所謂テレパシーのようなものだと弌華も紫苑も何時の間にか受け入れた。


「実際に喋っていたらMeeTubeに動画アップして小遣い稼ぎできるかと思ったけど、テレパシーじゃなぁ……じゅぞぞ」


「お前……天才か? よし、やってみようぜ! あっ、こら炭酸飲料はこれしかないんだぞ、一人で飲む気か全く……」


「あほう、テレパシーじゃ見てる側からすればただの猫でしょー。あっ、そっちの奴も取ってー」


「自分で動けよ……あいよっ。それでなんだっけ? あー、あっ、エイブラハムもいるか?」


『否定。どちかというと我はそっちの炭酸飲料というのが気になる』


「おお、そうか、それじゃあ……っと。あー、そうだった。確かに動画越しじゃテレパシーの会話がわからないから、俺たちが一方的に喋ってるだけか」


『肯定。それとこういった時は現住生命体は「ありがとう」というのだったなイチカ。ありがとう、それでは頂こう。おおっ、これが炭酸、しゅわしゅわ。不思議な感覚。……まあ、そういうことになるな。あくまでイチカやシオンに対して飛ばしているのであって、その動画の配信というのはよくわからないが記録するのは――』


「いかん、話が逸れた。エイブラハムの過去話回だからどうぞ続けて」


『了解。そうであったな。……ともかく、咄嗟の行為ではあったが致命的な事態を避けるという目的については成功することが出来た。だが……それは全て良い結果になった――という意味ではなかった』


「ほうほう?」

 

『確かに最悪の結果こそ回避したものの、我の「擬態」には致命的な問題があるのだ。我の「擬態」は使うことで現住生命体の姿形、更にはその生命体内包するデータを回収できるもの。基本はスキャニングに近い用途をするのが一般的だ』


「スキャニング……」


「ゲームで言えばアナライズとか解析とかそんな感じの使い方をしていたってことでしょ。相手に「擬態」することで相手の情報を得ることができる。そういう理解でおおけー?」


『肯定。この力があったからこそ、我は未開の星に降り立っても「擬態」を繰り返すことで効率的な情報を収集することが出来た。だが、この「擬態」には深度というものがある。ようするに「擬態」するにしてもには段階があるということだ』


 曰く、本来のエイブラハムは姿形や表面上のデータをサラッと擬態することにとどめ、興味をひかれた能力や生態の生命体のみに「深度擬態」を行いデータを回収するという形にしているのだとか。


 「深度擬態」することにはそれほどのリスクがあるのだ。


「……なるほど、要するに深く「擬態」をしてしまうと戻れなくなるってこと?」


「えっ、どういうこと?」


「わからないかなー? 「擬態」ってのは要するに相手のデータを自らに上書きするようなものなのよ。でも、上書きし過ぎちゃったら? 顔と姿形だけならともかく、身体の内部、頭の中やらまで上書きしてしまったらどうなる?」


「そりゃ上書きしたデータが当人を構築するデータの大部分になったら、そりゃ上書きした部分がメインにって――あれ、もしかしてこんなテレパシーなんて力使えるくせに、あんなごみ箱捨て場に倒れてたのって……」


 弌華にしても変とは思っていたのだ。

 宇宙を渡れるほどの力もあるのに、なんでこんな子猫のままで死にかけていたのか……と。


『――肯定。生命活動の停止を回避するため手段を択ばずに「擬態」をした結果、我はこの現住生命体対して無意識に「深度擬態」を実行してしまった。そのせいで生き延びることは出来たものの、あれは能力の大半を失ってしまったというわけだ』


「それでエイブラハムは倒れていたのか」


『肯定。失敗だった。特にこの現住生命体は同種のデータから比べて見てもかなり若い個体でな、とても苦労した。一先ずは安全な場所と更にはこの身体を稼働させるための燃料の補給を……と行動するも、この世界には敵が多すぎる。いや、この「擬態」した個体が弱いのか』


「まあ、どうも子猫っぽいしね。今のエイブラハム」


「人や車やら危険なものも多いからな。右も左もわからない状態じゃ更にねー。でも、まあ、良かったじゃん。弌華が飼ってくれるみたいだしさー」


「え?」


「「え?」ってなにさー。飼うって言ったのは弌華の方でしょー? そういうのあっさりひっくり返すのってどうかと思うぞー?」


「いや、しかしだな。流石に知能を持っててついでに宇宙人……いや、宇宙猫か。まあ、それはともかくとして。流石に予想外過ぎるというか」


「苦労してますって経験談聞いても追い出すのー? うわー、卑劣過ぎる。罪悪感とかないのかー」


「あるよ? 普通に話せる相手だったし、でも飼うってなるって一緒に生活することになるわけで、そう考えると――」


「口に出したこと、すぐにひっくり返す男は嫌われるゾ」


「今日からよろしくなエイブラハム。ゆっくり滞在していってくれ」


「相変わらず、わかりやすいやつ」


 あっさりと前言翻した弌華に紫苑は突っ込むが、どこ吹く風だと言わんばかりの態度だ。


「まあ、離してるうちにそれほど悪いやつじゃないって思えたし、一緒に卓を囲んで菓子とジュースの飲み食いしたんだから友達みたいなもんだからな」


『友達。……「ありがとう」、イチカ』


「よせよせ、そういうのはいいから」


「あー、照れてるぅ!」


「照れてないですー! 将来的に知的でクールキャラになる予定の俺がそんなツンデレ的な反応をするわけ――いや、クールキャラとツンデレはセットみたいなものか?」


「そもそもその方針転換は絶対に無理だから諦めろ」


「何だとぉ……」


 ワイワイと騒ぐ二人尻目にエイブラハムは言葉を続けた。



『提案。協力に感謝する。イチカ、シオン。だが、ただで世話になるというのも我としては心苦しい。それに二人は我のことを友人だと称してくれた、友人であるならば立場は対等であるべきで、一方的に助けられる関係性は望ましくないと我は考える。事例として、お金の貸し借りは友人関係の破綻の一歩と集めたデータにも……』


「何処から調べたんだそれ。まあ、飼うとなったら食費やら何やらかかるだろうけど、ボクも半分出してやってもいいからそんなに気にしなくていいと思うけど」


「マジか、助かる」


「だって宇宙猫だぜ、宇宙猫。そりゃ今後も関わりたいしさー」


『主張。しかし、一方的に享受される立場というのはやはり問題があると我は考える』


「うーん、ならお金でもその分払うとか? 家賃とか食費みたいな感じで、それなら問題はないと思うけど持ってないでしょ?」


『回答。確かにこの星における流通貨幣は持っていない。だが、与えられるものはある』


「なに、おたから?」


「一瞬で目が金の目になったな」


「今月厳しいからさー」


 などと言い合う二人を尻目に、エイブラハムはとんでもないことを言い出した。





『質問。二人はを――使って見たくはないか?』


「「使ってみたい!!」」




 唐突な言葉に弌華も紫苑も脳が理解するよりも早く反射で答え、一拍遅れて理解が追いついたように驚いた



「「いや、魔法ってどういうこと!?」」



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