39・思わぬ助力に(ネレイド視点)

「正面の敵艦多数!! 浄化聖光攻撃を受け、爆散しますっ!!」


 ミズキの声がブリッジに響く。私は。いや、私たちは。戦いの主役でありながら、その突然の戦いの場への闖入者の姿と行動に唖然として、半ば傍観者となってしまった。


「ルル……ジュ? だよな、あれは。ミズキ、メルシェ? それに、皆」


 ポカーンと口を開いて、戦場を縦横無尽に走り回り、火星宇宙軍の船舶を爆散させてゆく、あの死神天使ルルジュらしきものを見ている私たちブリッジクルー。


『ナニヲシテイルノ、ネレイド!! ハヤク、全軍デ攻勢ヲオカケナサイ!!』


 そんな霊声が響いてくる。ああ、何というかこれは間違いない。あのルルジュだ。


『何をトチ狂って、私たちの助力をしているんだ? ルルジュ?』


 私は皮肉たっぷりに、応えの霊声を放った。


『貴様とエリゴールは。木星に至った私たちの艦隊をほぼ壊滅させたではないか』


 そう聞く私に、ルルジュの霊声がかえってくる。


『アノトキハ、ワカラナカッタノ。貴女ガ、ドウイウ人間カガ、ネ。デモ、ソノゴノ貴女ノ言動ヲ見テイテ。エリゴールト二人デ話シタノ。面白イ人間ダッテネ。ダカラ、助ケル気ニナッタ。ソレダケノ事ヨ』


 そう話している間にも、敵の艦隊を蹂躙して、爆発の光華を咲かせまくるルルジュ。コイツのポテンシャルは、ここまで高かったのか。


『ま……、いいか。何にせよ助かるぞ、ルルジュ! 過ぎたことは問わん!! 助力有難いぞ!!』

『アラ? 胸ガキュンキュンシチャウ♡  ソウイウ態度ッテ、素敵ヨ、ネレイド』

『まあ、ね。半狂いの貴様らだが、この船のクルーは、貴様らの戦闘力が途轍もなく高い事を知っている。そのまま、戦闘継続を頼む。我らは、全軍で怯んだ敵に突撃を掛ける!! またとないチャンスだ、これは!』


 私は、実際の所。マドルスのイシュタル号を拿捕するために、敵陣に突っ込みすぎてハマっていたのだ。そのタイミングで、ルルジュが突然現れ、敵の待ち伏せの陣を崩壊させかけた。お陰で、私たちは位置を取り直すことができた。

 その上、私の計算外の事態が、敵の後方に埋伏した、イオスとカリトスの艦隊に起こっていたが、そちらの問題も、『悪魔公爵』を名乗るやつが処理してくれたとのこと。まあ、悪魔公爵なんて奴は多分そうそう居ないし、このルルジュの出現のタイミングを鑑みると、間違いなくエリゴールだ。

 死神天使ルルジュと、悪魔公爵エリゴールは。何の気まぐれか、私を助けてくれる。あの激甚な破壊力を持つ存在が、味方に着いてくれている現状に対し、余計な猜疑を挟んで矛を鈍らせるような愚行は私は犯さない。


『全艦隊!! 突撃開始!! 敵後方のイオスとカリトスにも、背後からセレスリーン艦隊を叩けと伝えろ!!』


 よし、行ける。この戦は行ける!!

 想定外の事態が起こり、私が自分の未熟さに頭が重たくなりかけていたところで、突然のルルジュとエリゴールの助力が入った。

 これは、勝てと闘神が言っているようなものだ。

 この太陽系で、命のやり取りの戦をしているものに、闘神を侮辱や無視するものは存在しない。

 その闘神の加護を私は感じ、全艦隊の戦闘に立って、敵が敷いている包囲殲滅陣を、力づくでぶち破るような突撃を敢行した!!

 狙うは、敵旗艦部隊!! 一気に粉砕して、敵艦隊を機能不全に追い込むのだ!!


「敵、旗艦部隊より高エネルギー反応発生!! 何か、特殊兵装の類を用いている魔導力の高まりを検出しています!!」


 ミズキが、戦場をモニターしながら、そう叫ぶ!!


「メルシェ!! アフラ・アル・マズダ号の特殊兵装展開!! 味方艦隊全体を、魔法を跳ね返す魔法結界フィールドで包むっ!!」

「了解です!! 広域魔導結界、詠唱開始!! アフラ・アル・マズダ号、魔導回路稼働率上昇させます!!」


 さて、メルシェの広域魔導結界で、味方艦隊全体に魔法結界フィールドが掛かったところで。

 敵の旗艦の特殊兵装が起こしたであろう、重力津波が襲ってきた!!


「……危ない、な。こんな高密度の重力波をまともに喰らっていたら、味方艦隊は大打撃を受けるところだった」

「はい、随分と威力の高い特殊兵装ですが。それだけに連発は出来ないでしょう。行きましょう、提督!! 敵将セレスリーンを捕らえるか、敵旗艦を撃破するか。いずれにしても、ここで勝ちを掴んで、木星の権利を主張する拠り所を作るのです」


 ミズキが、そう力づけてくれる。

 よし、行こう。セレスリーンとの最終の決着をつける。


「全艦隊、圧力をかけてゆくぞ!! 敵旗艦部隊を包囲して、包囲をすぼめてゆくのだ!!」


 私はそう言うと、大分撃ち減らした敵の残存艦隊を取り囲む陣形をとり。

 敵にとどめを刺しにかかった。

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