12・ピウフィオの料理

「? 副官サマ? アタシに饗応用の料理しろって? 食材は船内プラントで作れるケド……。アタシの手間賃、高いわよォ?」


 ゼイラムは。艦内食堂に木星人たちを通して。ブリッジからピウフィオを呼び出し、料理を振舞うように命じたのだが。ピウフィオは、それに対して対価を求める。まあ、通常任務外といっていいアイツの特技だからな、料理は。


「私のデジタルマネーで払うぞ。50000クレジットもあればいいか?」

「やっすいわねぇ? 賓客の応接に使うんだったら。料理人に100000クレジットは払うものよォ?」

「75000! 間を取ったぞ、文句ないか⁈」

「乗ったぁ!! 受けるわよォ、副官サマ!」


 双方ニヤッと笑って。ガシッと握手をする、オカマと中年男。表情に脂が乗り過ぎていて、少々強烈な絵面かも知れない。


「じゃあ、始めますかねェ。ウフフ! メニューは任せてね、副官サマ」

「うむ。私は料理は出来ぬからな。任せるしかない」

「いいわねぇ、好きに料理できるって!! いつもは、クルーのみんなのオーダーが結構ワガママさんだから。食べてほしいもの作りたいものを作れるとも限らないのよねぇ」


 ピウフィオはそう言うと、貯蔵原子を材料に分子を作り、それを更に組み合わせて食材などを作る有機物プラント機械のメニューをタッチパネルで弄り、食材を決めて作成開始。この有機物プラント、タッチパネルで選ばれたメニューの中の肉や野菜や魚や菌類などを、フルオートで作ってくれる代物である。


「さて、まずは食前酒出しておいてェ。この前作った合成白ブドウのスパークリングワイン。まだ瓶に入ってたでしョ?」

「ふむ……。確かにまだあるな。出しておこう」


 そう言って率先して動いたのはクリーズ。コイツはなんだろう。この気品がある癖に、接客が大好きという変わった奴である。無表情で無口ではあるが、動きがいいので。この艦に訪れる大概の客は、コイツの接客態度に満足をすることがほとんどだ。

 シャンパングラスにスパークリングワインを注いで、十人の客に振舞うクリーズ。


「……? 何だこの金色? のような水は。中で泡立っている。毒か?」

「少々の毒性はあるが……。量を過ごしすぎなければ、身体を痛める類の毒ではない。なんともいえぬ香りと、甘みのある少し苦い飲み物だ。味の良さと口あたり、香りの良さは保証する。飲め」

「……試してみようか」


 木星宇宙軍の提督が、思い切ったようにシャンパングラスに口をつけ、中身を煽った。そして、一瞬びくっとしたような顔をしたが、その顔がやがてほころんできた。


「……!! これは……。いいものだな!!」

「で、あろうな。客人」


 木星人の提督がスパークリングワインの味に目を輝かせている様子を見て、クリーズは淡々とした態度ながらも僅かに微笑みを浮かべた。微笑ましいのだろうな、初めて味わう文化文明の味に感動する朴訥な人間が。


「メインが出てくるまでしばらく時間がかかる。その間はこの酒を楽しんでおいてくれ」

「……何やら体が熱いが……。これは?」

「それが、酒の薬効だ。全身の血の巡りをよくする効果がある」

「サケ、というのか。これはいいものだ、本当に!! 何やら心地よく、陽気になる」


 リーダーである木星人の提督が飲んだので、その部下の木星人たちも追々飲み始め、何やら食堂ががやがやと騒がしくなってきた。まあ、酒を飲むと人間は饒舌になるしなぁ。


 やがて、ピウフィオのいる厨房の方から。肉の焼ける匂いが流れてきた。

 うむ。ニンニクに、ショウガ。それにブランデー。それからこれはソイソースか? いや醬油の事なのだが。更に黒コショウの香りもする。ハチミツか何かの多少甘い匂いも混じっていて……。

 む、多分アレだな。ピウフィオの十八番の料理、スペアリブの漬けダレ焼きだ。それ以外の何者でもない香りだこれは。


「さーてー。出来たわよォ、お客さんたち。アフラ・アル・マズダ号の看板料理、ピウフィオ操舵長の特製漬けダレ焼きスペアリブ。美味しぃんだから、味わってねェー♪ あ、サラダもあるから、ちゃんと食べるのよ。食事って、栄養バランス大事だから!!」


 そういいながら、私たちに配膳をしろと皿を次々と渡してくるピウフィオ。

 まあ、私も、ゼイラムもクリーズも。バッシュも別にそれを嫌がることなく、テーブルについている木星宇宙軍の連中の前に並べた。

 みれば、目の前に皿が並んだ途端に。木星人連中の目つきが変わった。

 これは、アレだな。香りだ、食い物の。

 未知の食い物を目の前にして、その香りにやられて、凄まじい食欲に駆られたのだろう。


「く! 食ってもいいのかこれは!!」


 木星人連中が口をそろえてピウフィオに問いただす。


「ウフフフフ……。まずは、いただきます、って言うの。それからよ」

「イタダキマス?」

「食膳の礼というものよ。それすると、ご飯がものすごく美味しくなるんだから!」


 それを聞くと、木星人たちは腰から姿勢を正して一斉に言った。


『イタダキマス!!』


 と、霊声でも聞こえるような大声で。

 そして、もはや。飢え切った肉食獣が肉にかぶりつくように。


 手づかみでスペアリブを貪りまくるのであった!!

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