8・いつか地球に帰る日を夢見ての500年(マナ視点)

「何者かが……。この木星に侵入してきました。我ら木星人とは似たれども、僅かに魂や心の形が違うものが……」


 私は、木星人の間で。

 木星の星母と言われている、マナというものです。

 私が生誕したのは、おおよそ五百年前。地球の機械文化や科学文明がおおきく跳躍し始めたころ。

『疑似的な不老不死の肉体』の開発に成功した地球人たちが、『木星の資源を採掘するにあたってのまとめ役』として作り上げた、『木星生活特化仕様』の強化人間です。


「マナ様……? どの辺りにですか? 我らには『魂魄こんぱく探知能力』はないのです。木星では、マナ様のみがその力を持たれております。座標指定をしていただければ。プレート大陸間移動用のプレート船で捕えて参りますが」


 私の先程の呟きに対して、反応する木星の五人の王のうちの一人、ジプス。そう、木星では私を頂点とし、その下に五人の王があり。その王たちがそれぞれ木星海上に浮かぶ五つのプレート大陸を治めるという政治形態をとっているのです。


 木星には、海上に浮遊する巨大な結晶水素プレートの大陸は五つしかなく、海上を移動することで、それらが合わさることもあります。

 ただ、このプレート大陸をすべて合わせても、木星の海面に対するサイズは、海面サイズが1000であるとすれば1未満に過ぎず、地球で言えば大海洋の中に浮かぶ小島ほどの大きさしかありません。

 しかし、比率というもの用いるならば。この木星の大陸面積の大きさは、地球の大陸サイズを遥かに凌駕するというわけです。それほどに木星という星は巨大な質量と大きさと、資源量を誇る星であるのです。


「座標・N34/E90エリア近辺を緊急探査。そこに必ず、星の外よりの来訪者がいます。それは、この私には感じられる。果たして、敵であるのか味方であるのか。それはまだ見分けがつきませんが、荒事はできるだけ避けて参りましょう」

「……無許可で、木星に降りてきた者です。捕縛してしまい、木星の労働力に用いるというのは如何でしょうか?」

「それをするにしても。殺してしまってはなりません。今回は大事をとって、プレート大陸での移動は掛けずに、結晶水素プレートの船底を持つ木星宇宙軍の艦艇を用いて探査をかけるのです。では、実行を開始。木星に平和あらんことを」


 さて、この木星に無許可で入ってくるとは。何者でしょうか?

 反地球連合を組んでいる土星の船舶ならば、即座に『霊声無線』の艦艇機能を使って不時着の許可を願ってくるはずですし、取引先である火星の船舶であれば。やはり同じように救援信号を送ってくる筈です。

 と、いう事は。もしや地球の船舶でしょうか? となれば話は別になります。


 私の中に、先頃行われた地球宇宙軍による暴虐行為が思い出されました。

 怨敵地球宇宙軍の艦隊が三艦隊。地球より派遣されてきて、木星宇宙軍と木星上空上宙域で交戦。そして、優れた戦術戦法と、最新鋭兵器の威力で木星宇宙軍を撃破撤退させ。

 そこまでは、こちらも土星と組んで反地球の気勢を上げている以上は覚悟していましたが……!

 許せません、許すことができません!!


 地球宇宙軍は、戦闘に参加する意思のない木星人民の生活するプレート大陸上に強力な重力子爆弾を用いての爆撃を掛けてきたのです!!

 あれで、何百万の木星人が死んでしまったことか……!!


 私たち木星人は。太陽系の宗主星である地球の言うことには一応は従います。ですが、それはこちらの生活を脅かすようなモノでない、そして、我らに誇りを与えている木星の自治権を奪わない。これらの条件がそろった時に限ります。


 私は木星の星母として!! 相手が親に等しい地球であっても、歯向かわざるを得ないのです。それが、木星人を活かし、生き甲斐を与えることにもつながります!


 ……しかし、私も思わないことはないのです。

 幼き日々を過ごした、あの自然と文化文明に溢れた、地球のすばらしさを。


 私を強化育成していた、生物科学研究所のスタッフは言っていました。


『マナ。君には大きな仕事がある。木星の資源採掘の総指揮という仕事だ。それは、何百年、何千年かかるかわからない。だから、私たちは君に疑似的とはいえ、不老不死の身体を与えた。仕事が終われば。胸を張って地球に帰ってこれるよ。それまでは頑張るんだ。いいね?』


 と。私はそう言った教育を受け、自分の仕事をこなしてきました。

 いつか地球に戻れる、帰れる。


 そんな日を、ずっと夢見ながら。

 もう、500年の時間がたって。


 私にその約束をした人たちはとっくに死んでいるだろうというのに。

 私には、それしか心のよりどころがないがゆえに。


 この不毛な木星で、必死で自分の任務をこなしているというわけです。

 もはや、宿敵関係になってしまった、地球に帰ることなど。


 不可能な事だというのに……。

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