第2話 はいはいどーせ夢落ち

 荷物の確認を済ませたオレは「いつも通り」に宿屋のおばちゃんと会話して、外に繰り出す。




 「うおー、落ち着いてみてなかったけど、結構いろんな人が居るんだなー」




 この世界には多くの種族が存在しているみたいだ。見えている範囲だけでも結構な種類がいる。




 普通の人間っぽい女性、男性。いわゆるトカゲのような見た目で人間と同じ身長の「人?竜?」。人間の耳を横へ引き延ばしたような見た目はやはりエルフだろうか。




「すっげえぇ…」


 なんだか今まで「夢で」来ていた世界じゃないような感覚を覚える。




「まさかとは思うが、ケモミミ美女なんているんだろうか…」


 あたりをキョロキョロと探してみる。




「まぁ、そんな簡単には見つから─」




──いたああっ!あれは、ケモミミ!しかもかわいい!




 この世界はどうやら夢で見ていた世界と同じようだ。最後の美女たちにハーレムされている時にも、ケモミミの美女たちが居たからな!


(うひょー!最高だぜえぇ!)




 思わずガッツポーズしていると、遠くに見えていたケモミミの女性が居なくなっていた。




「やべっ!追いかけないと!」




 小走りで、彼女が居た方向へ向かっていくが、見当たらない。




「うそーん、どこいったのー」


 まぁ、これだけすぐに見つけられたんだ。また会えるでしょ。




 ─。




 それからしばらく、町の中をうろうろと冒険してみた。




「思っていたよりも、ケモミミ美女たちは少ないようだ…」




 くぅ、早く話してみたい!耳の付け根とか見せてほしい!


 町の中心あたりを見つけて、そのあたりで休憩している途中にオレは同じ外見のケモミミ様を見つけた─。




 ケモミミ美女!いや、かわいい!美少女だ!銀髪よりも、綺麗な白髪と言った方が似合うだろう彼女は、150㎝もないくらいの少し小さめな見た目で、全体的に色素が薄いのか、肌色というよりも白に近い肌に真っ黒な瞳が、とても魅力的に映っている。そして、何よりも注目すべきはその「しっぽ」だろう。人間サイズの獣にしっぽが付くと、思っていたよりも大きくなるみたいだ。オレの両手でも包み込めそうにない太さのしっぽは、彼女の足元ギリギリまでの長さがある。引き締まった体つきに、セミロングくらいの白髪がとても綺麗な女性を印象付けている。


和装のような、着物のような少し特殊な衣装が、彼女の魅力をさらに引き上げていて、小柄な印象を感じさせないほどに厳かな雰囲気を醸し出しているのは、彼女自身がその衣装を着こなせているからだろう。




「今度は同じミスはしないぞっ!」


 オレは速攻で走り出す。




「ちょっと君ー!少しだけ話を─」


「誰ですかあなたっ!」




「あの、少しだけ話を聞きたいんですけど!」


 初めて会話するケモミミ美少女に、興奮を抑えきれずに鼻息が荒くなっている。




「い、いやです。急いでますから」


「お願いだ!ちょっとだけでいいから!!」




 自分で思っているよりも『ガツガツ』イケているのは異世界だからだろうか?夢の中だからか?ケモミミに興奮しているのか?


(そんなことよりも、ケモミミだ!)




「す、少しだけでいいから、お願い!」


「いやです、これ以上寄ってきたら、殴りますよ」




「ぐぬぅ…ど、どうすれば…」


「あなた、怪しすぎます。なんだかとても嫌な感じがします。匂い、かな…?」


「え…」




 オレ、くさい…?


 ケモミミ美女から出た、あまりにも衝撃的な言葉に崩れ落ちてしまう。




「そ、そんな…オタクだからって、匂いに気を使ってないわけじゃないんだ、くさいのは自分でも嫌だから、最低限気を付けていることなのに、それなに、まさかオレって臭っているのか…」




 思わず泣きそうになってしまいながら、地面を見つめていると─。




「と、とりあえず、怪しいので近寄らないでください。ではっ」




 そう言い放ったケモミミ美少女は、走り去っていった…。




 ─しばらく地面を見つめていると、だんだんと落ち着いてきた。




 そうだ、これって夢のはずだよな…?


 美女たちが、オレの望み通りにハーレムを形成してくれる夢じゃなかったか…?どうして、こんなことになってるんだ。


「そういえば、このあたりはいつも思考が加速していくはずだよな?」




 なんだか、おかしくないか…?


「オレが、モテモテにならない夢なんて、夢じゃない…」




 自分でもおかしなご都合主義だと感じつつも、いつもの夢から乖離している内容に違和感を覚え、現実に『夢みたいなこと』が起きるはずもないので落ち付くことができた。




「早く目が覚めないかなー。トラウマをほじり起こされそうだよ…」




 なんとか正気を取り戻して、立ち上がり先ほど休憩していたベンチまで戻ることにした。




「引き続き、ここでケモミミ美女を探す」




 そうだ、先ほどの「ケモミミ美少女」がたまたまオレのことを嫌いだっただけだろう。そうだ、そうに違いない。


 よし、しっかりケモミミ美女を探すぞ




 ──。




「もう夕暮れかぁ…」




 時計がないから正確な時間は分からないが、2時間くらいココに座ってケモミミを探していたが、残念ながら見つからなかった。




「宿断ったけど、大丈夫かなぁ」




 ケモミミ美女よりも、いつまで経っても目が覚めないことが気になり始めていた。


 そろそろ『ケモミミ美女探し』をあきらめて、宿を見つけておかないと夜に外で寝ることになってしまうかもしれないな。




「宿を探すかぁー」


しばらく座っていたので、固まった体をほぐしつつ立ち上がる。




「よし行くか!」


 


 なんだかいつもの夢と感じは違うが、今だけ楽しめるであろう『非日常』を全力で楽しむことを、ケモミミ美女探しの途中で考えていた。




 宿を探し始めてすぐに、路地の中で誰かが座り込んでいる影が見えた。


 日常のオレだったら必ず声は掛けなかっただろうが『夢の中』ということもあり、その影の持ち主に声をかけるために、そちらへ向かう。




「あの、大丈夫ですか?」


「おなか、すいたぁ」




─グウゥゥゥ…。


 とてもかわいらしい声の持ち主が、お腹を空かせているようだった。


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