アクションRPGの騎士に転移した俺は、敵の悪役神官に転移した幼なじみと、聖女を取り合う! 世界の明暗なんか知るか!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

ゲーム世界に、敵同士で転移

 それは、ゼロ距離魔法を頭で受けつつ、敵である暗黒神官のフードを剥がしたときに起きた。

 

「あんたは……ジュライ!?」


 素顔をさらし、暗黒神官が俺の本名を呼んだ。 


「ジュライ、安藤アンドー樹来ジュライなんでしょ? 返事をして!」


 見覚えのあるポニーテールの少女が、俺のフルネームを告げた。


「お前は、レン? タチバナ レンなのか?」


 俺は暗黒神官にフルフェイスのヘルムを破壊され、前世の記憶を取り戻す。



 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 


「安藤……いつきくんだっけ?」


 机で突っ伏しながらゲームしていると、生徒会長が俺に声をかけてきた。


「ジュライ。これでジュライって読むんだ」


「変わってるねえ。そのゲーム、『フォトガー』だよね?」


 生徒会長である橘 蓮が、俺の携帯ゲーム機を覗き込む。


 このゲームは『フォート・ガーディアンズ』といって、今時珍しい2Dのベルトアクションゲームだ。つまり、横へスクロールしていくアクションゲームである。


「コントローラーじゃないと、ゲームしてる気がしなくて」


「わかる!」


「ゲーム機、取り上げに来た?」


 マジメな生徒会長だもんな。俺みたいな目立たないまでも不良なオタクは見逃せないか。


「まさか! 協力プレイしよ!」


 なんと、生徒会長もゲーム機を出して、俺の端末へとつなげた。


 それが、俺たちの出会い。


「ジュライ使ってるんだね? 名前が一緒だから?」


「ああ」


「そんなクソマジメなキャラって、使ってて面白いの?」


「面白いよ。一本筋が通っててさ」


 普段から素行が悪いからな。マジメなキャラにちょっと憧れがあるのだ。こっちの「ジュライ」って名前の騎士は、さぞまともな人生を送っていたのだろう。曲がったところがない。


「レンの持ちキャラは、仲間を裏切る悪役令嬢でいいのか?」


「そこがいいんじゃん。裏で手を引いているとおもいつつ、実は聖女を慕っているっていういじらしさ! 同じレンって名前にも惹かれちゃった」

 

 ラスボスを倒し、囚われた聖女を救い出す。いよいよ「対戦モード」に。


 パーティプレイだった際、本作のラストでは聖女を巡ってプレイヤー同士が戦う対戦モードがある。勝ったほうが、聖女を自分のモノにできるのだ。


「聖女ウルハたんは、わたしのものだーっ!」


「お前も女子なのに、聖女がほしいのか?」


「キャラ愛に性別は関係ないのだーっ! 覚悟せい、ジュライ!」


 ゲーム画面の中で、俺の剣とレンの魔法がぶつかり合う。


「おおおおお! はあ!?」


「ななななな!?」


 だが、決着が付く前に光に包まれた。

 どうやら対戦時に、二人揃ってゲーム世界へ転移させられてしまったらしい。



~~~~~ ~~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



「このシーンってさ、オープニングだよね?」


 ジュライパートとレンパートのオープニングでは、両者の剣と魔法がぶつかり合う。


 プレイヤーキャラの一人「伯爵令嬢 レン・ブランド」の正体は、魔王に仕える神官である。彼女は聖女に取り入って、女性でありながら聖女を手籠にしようとしていた。お友だちになりたいとも言うが……。つまり、友情を魔王に利用された形だ。

 聖女に仕える「騎士 ジュライ・ルドワイヤン」は、レン・ブランドの正体を知らぬまま、暗黒神官と剣を交える。正体を知って戸惑いつつも、聖女の守護という共通の目的のために行動をともにするのだ。


 それと、同じシチュエーションではないか。


「まさか、わたしたちゲーム世界に転移しちゃった?」


「そのようだな」


 俺は剣を収めた。


「わたし……というかレン・ブランドって、フードの魔力によって操られていた設定なんだよね」


「俺が、お前の呪縛を解いてしまったってわけか」


「これってチャンスじゃん?」


「だな」


 レンは魔王軍の中で、四天王であり二重スパイだ。


 俺も騎士団のトップである。


 二人が協力すれば。


「大丈夫ですか?」


 森の奥から、清楚な女性が走ってきた。


 ウルハは傍らに、シーフと魔法使いを連れている。


 間近でウルハたんを見られた。生ウルハ、なんて刺激が強いんだろう。


 ショートボブの髪、空を閉じ込めたかのような青い瞳、神官の趣味としか思えない、ミニスカート。


 それだけで、俺は舞い上がりそうになった。


「ウルハた……ウルハ!」


 あまりに奇跡的な光景を目の当たりにして、俺もレンも思わず素が出そうになる。


「あなたは!?」


 レンの格好を見て、ウルハが後ずさった。


 ムリもない。今のレンは四天王の一人、悪役神官なのだから。


「そんな! レンが、四天王だったなんて」


「聞いてくれ。戦ってわかったんだが、レンは魔王に操られていたんだ」


「本当ですか?」


「ああ。俺が呪いを解いたんだ。そしたら、正気に戻った」


 俺の説明を聞いても、他の仲間たちは懐疑的な眼差しを向けてきた。まあ、にわかには信じられんよなあ。俺だって信じるかどうか。


「あなたを信じますよ。ジュライ」


「ありがとう、ウルハ」


 よかった。ここまでは【レンのオープニング】と同じだ。


 ウルハたんなら、信じてくれると思っていた。


 ただ、レンの場合は【他のキャラと戦う】ルートも存在する。


「おいレン、まさか仲間とコトを起こそうなんて、思ってないよな?」


「まっさか! 仲良くするっての!」


 レンはケロッとした顔で言う。


 まあ、レンに限ってシナリオに忠実なルート選びはしないよな。


「わたし、ウルハたんを守れるよ! わたし、魔王軍を抜けて、ウルハたんを陰ながら支えるね」


「ああ。俺はいつもどおり、魔王の軍勢を仕留めて回る!」


「で、その後は……ねっ!」


 笑ってこそいるが、レンは鋭い眼差しを向けてくる。


「おう。覚悟しておけ」


 前世でつけられなかった決着を、今度こそ!

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