第6話 ギルドに行こう

 街は元の世界に戻ってきたのかというくらいどこも発展していた。

 もちろんテレビやラジオ、携帯とかの電子機器が揃っていたり、高層ビルのような近代建築が揃っている訳でもない。

 だが俺には都会よりも、もっと綺麗に見えた。

 ただ太陽の照らす光をビルが反射する、そんな表面上の綺麗さではなく、澄んだ空気と子供達の無邪気な声、剣を担いだ若い人に商人のおっちゃんの笑い声。

 全てが当たり前のように見えて実は当たり前では無い、そんな日常が綺麗という名をもった光として街を照らしているのだと。

 そして笑顔も全てを明るく照らすのだと気付かされた。

 偽りの笑顔、本物の笑顔、どんな笑顔だったとしても無意識的にこの世を明るくすることが目的としてある物なのだろうと思う。

 例えば今俺の隣にいるセシルだってそうだ。

 いきなり知らない人、しかも異世界人の俺から話しかけられても、不審がる事無く笑顔で食料を分けてくれた。

 俺は異世界に来て、慣れない雰囲気に焦りや不安を所々で感じていたが、セシルの笑顔によって、付与魔法の如く希望や楽しさという感情が俺にもたらされた。

 異世界に来て学べたのは日常の大切さ、笑顔の大切さだ。

「ギルドに着いたよ、カノン! ここがギルドじゃよ、ふふんっ……」

 そんなことを考えている内にギルドに着いたようだ。

「普通の家もデカかったが、これはデカイな。後何でセシルがそんなに自慢げなのさ」

 コンビニの十倍はあるサイズのギルドの佇まいの威厳が凄い。

「異世界人に案内するのが初めてで、こんなに良い建物紹介すると私も自慢したくなっちゃうのだよ! 分かるかねカノン君」

 確かに言いたいことは分かるが。

 音ゲーに昔から知ってる曲が追加されて、譜面にどう表現されているのかが分かった時、音ゲーを普段やらない人にも教えたくなる。クラスの良く話す人とかね。

 なんで音ゲー勧めてるのにやってくれないんだろうか。

 まぁ多分それと似たようなものなのだろう。

「寮とギルドは一緒になってるのか?」

「ううん、別の場所にあるよ。結構の人が入ってるからギルドよりも全然大きいんだー」

 まじか、ギルドよりデカいとなると団地みたいな感じなのかな。

 どんな寮なのかちょっと楽しみになった。

「とりあえず入ろっか。シルーナさん来たよーー!」

 シルーナさん?てか内装も凄い……

 あれシャンデリアってやつじゃん。

 ギルドというよりいいとこのホテルじゃん。

「あら、セシルじゃない、とその後ろの子は?」

「天羽奏音って言います。カノンと呼んで貰えれば。あと服装で分かるかと思いますが一応異世界から来まして、森の中を歩いていたらキノコ食べてるセシルに会って、ここまで来たって感じです」

「異世界人のカノンね、分かったわ。私はさっきセシルが呼んでいたように、シルーナよ。職業は見ての通りギルドの受付嬢、セシルと一緒に来たってことはダンジョンのお誘いがあった感じかしらね」

 耳が! 尖がってる! エルフ族だ! まさか自分の人生の中で見るとは思ってなかったランキング上位だ。例えばドワーフとか獣人とか他国の先住民がランキングの上位に入ってる。

「良くお分かりで……まぁ自分もダンジョンに興味がありますし、後は元の世界に戻る方法ってあるんですか?」

「元の世界に戻る方法、ね。それについては後で話すわ。ダンジョンに入るには君の固有スキルによっては難しいかもしれないから教えて欲しい。教える、というより見せてもらう感じだけれど。ちょっと着いてきて」

 固有スキルは俺の元居た世界でやってたことに準拠するから、こっちの世界では名前だけで判断することは難しいのだろう。

「了解です」

 豪華なギルド内を俺、セシル、シルーナさんと共に歩む。

 周りには屈強な体躯を持ち大剣を担いでいる強面な男性に、短刀を腰に差している少年、少し大きな杖を持った女性など色んな人が休憩場に居座っていた。

 これだけで一気に異世界のダンジョンへ行くのだ、という実感が湧いた。

「着いたわ。ここがスキルや武器の試し打ちをしたりする練習場よ。あまり派手にやると片付けが面倒くさくなるから気を付けてね。それじゃあステータスを見せて」

 でっかぁぁぁぁ…………これ以外に言葉が出ない。

 どこにこんなスペースがあると思うんだ、いや思わん。

 前にセシルから教わった通りにステータス画面を開き、シルーナさんに見せた。

「ふむふむ、君の固有スキルは音楽げーむというのね。武器種が弓、とすれば何かを投擲するという感じかしら。けど、等ってどういうことなの?」

「俺に聞かれても分からないですね……」

 武器種に等ってよくわからないんだよなぁ。

「まぁいいわ。武器種が弓なのであの的が沢山ある場所に、固有スキルを発動してみて」

 あそこか、とりあえずスマホ出し……

 充電が、無い!

 そっかぁ、イベランしてた時熱を持ちすぎないように、充電せずにやってたから元々少なかったんだ。多分森を出た頃には切れてた可能性が高いな。

 どうしよう、どうしよう。

「どうしたの? やり方が分からない感じなの?」

「いえ、さっき森で偶然ですが発動できましたが、その時にはスマートフォンを媒介にしてたんですよ。それが今諸事情で使えなくなってしまって」

「充電切れ、ってやつね。実は何かを媒介にしている人は良くいるのだけれど、今では全員が媒介無しで発動してるのよ。どうやってると思う?」

「どうやるも何も、媒介する物が無いなら難しいと思うんですが」

「正解は想像よ、想像。頭の中でそれについて考えて現実世界に創造するの。例えば剣のスキル持ちなら剣があった方が、想像しなければならないという負担を減らせるけど、何も剣がないといけない訳じゃないわ。想像して創造して戦ったりもするの」

 要するに音ゲーのノーツをこちらから送り出す所を想像する、という事か。

 事実、即興で創作譜面をイメージしてみろ、みたいな物だな。

 ただ脳を使いすぎると、体力の消耗然り、身の安全にも影響があるか。

「因みに私の付与魔法も想像なんだよー! まぁ魔法の時点で想像が必要なんだけどね~あはは~」

「セシルの言う通り、魔法も基本想像で行うものなの。だからその、音楽げーむってやつを想像して的を狙ってみて欲しいの。沢山あるからどれかには当たるはずよ」

「分かりました、やってみます!」

 俺は一度に色々は考えられない、だから想像も一筋縄ではいかないだろうと思う。

 それ故に、ノーマル辺りの難易度を想定した譜面を想像する。

 とりあえず3コンボ分を的に命中させるべくノーツの流れる道を構築した。

「え、当たった……」

「あれが、音楽げーむというの……?」

「カノンすごーい! 初めてでちゃんと当たったよ!」

「当たると思ってなかったな。後セシル、シルーナさん、今飛ばしたものが音楽ゲーム、通称音ゲーにとってメインに使われる『ノーツ』という物です」

「音ゲー……ノーツ……今のを見たところ確かに武器種が弓なのは理解できたわ。等が謎だけれど。あと、まだ威力はそこまで出てないものの十分戦える素質が君には、カノンには備わっているわ。これならセシルと一緒にダンジョンに潜れる」

「やったーーー! カノンのお陰だよ! 生きてきて苦節18年、ついに私がダンジョンへ!」

 ん? 苦節18年……?

 えー、臨時ニュースが入りました。えー、セシルさんがまさかの俺よりも年上だった、ということです。

 えー臨時ニュースを終わります。

「カノンどうしたの?」

「いや、なんでもない。思ったより戦えそうで驚いただけだ」

「確かにあれなら戦えそうだね! 楽しみだな~。ってこれだと私の出番が結局ないじゃん!」

「それに関しては大丈夫よ、付与魔法は良く矢に付与することがあるのよ。要するに、ノーツが放たれた時にセシルがノーツに付与をすると、属性効果があるノーツへと変わるわ!」

「それなら武力では無力な私も一緒に戦える! 流石シルーナさん!」

「褒めても何も出ないわよ? よし、それでは正式にダンジョンへ行く手続きを済ませちゃいましょうか。さっきいた受付の横に個室が何室かあったでしょ? そこまで行くわ」

「「了解です!」」

 なんかセシルと息がピッタだったな。

 上手くやっていけそう。

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