第2話 マンドラゴラ採取

周囲には齢100年は越したと見られる多くの樹木が生い茂っていて、その周囲には手で握れるサイズの根っこが地面から生えている。


 チュニックの上着にズボンを履き、カバンを肩から掛けた男が一人、その根っこの前に立った。男はカバンから曲線の棒があって、左右にパッドがある物体を取りだすと左右のパッドをそれぞれ耳に嵌めた、曲線の棒の間に首があり、左右のパッドはそれぞれの耳を完全に覆っていて、巷でヘッドホンと言われている。

「これで、音が遮断された。マンドラゴラを引き抜いて、あいつらの食事代を稼いでやる」

 男は両手で根っこを握ると引っこ抜こうとする。人型をしたマンドラゴラが姿を現し、口を開けている。 

「ヘッドホンで死の雄たけびは聞こえないんだ」

 マンドラゴラは手に似たところを動かし、パッドを動かそうとする。

「無駄だ、ずれないように固定できてるんだ」

 マンドラゴラは口を開けている。すると、耳元でバキッという音がした。

「何だ?この音は、、、」

 男の顔が青ざめる。

「音がしたという事は」

 男がヘッドホンを押さえる。

「まずい」

 男の耳に死の雄たけびが聞こえる。男は鼻と口から赤い液体を流し、倒れた。

 男はピクピクと全身を動かしている。するとぞろぞろと、男の周りに手のひらサイズの虫達が集まった。

 男の体を虫が覆うと空から虫達を狙い、嘴の鋭い人の顔をした鳥が降りてきて、虫達をついばんだ。虫達が去ると骸骨だけが残った。


 樹木が生い茂り、近くに手で握れるサイズの根がある。近くには割れたパッドがついた物体と骸骨があった。

 銀髪でウェーブのかかったボブヘア。両耳に青いイヤリングを付けた整った顔立ちで右手にブレスレットを填め、ポーチを装着した迷彩柄のローブの女性が根の前に立った。名はソフィという。ソフィはマンドラゴラ採取許可証を取り出し、確認する。

「マンドラゴラで間違い無いですね。間違えると道具屋免許が取り消しになるので、気をつけなければ」

 ソフィは右手で杖を構えると杖から緑の紋章が浮かび上がる「Los(行け)」と呟いた。

 ソフィは両手で根っこを握ると引っこ抜こうとする。人型をしたマンドラゴラが姿を現す。半分くらい引っこ抜いた所で口が見えたが、構わず引っ張った。マンドラゴラは口を開けているが音は聞こえない。

「マンドラゴラの周囲の空気を無くしました。これで音は空気を伝わることができないので、雄たけびは聞こえません」


 ソフィはマンドラゴラを全部引き終える。


「これで、マンドラゴラは死の雄たけびを上げることはありません」  


ソフィはマンドラゴラを空間魔法が施された。ポーチの中に入れ、代わりに赤い液体が満たされた袋を取り出し、マンドラゴラが埋まっていた場所に振りかけた。

「マンドラゴラは生物の血が必要です。これを対価にします。これで大丈夫ですね」 

ソフィは骸骨の前に立つと一瞥する。

「密猟者ですか、マンドラゴラは高値で取引されるため、簡単にみえるので、狙うものが後を絶ちませんが素人では捕獲は難しいと言われています」

 横の骸骨が歯をカタカタと鳴らし出した。

 ソフィはポーチから瓶を取り出し、中の水をかけた。骸骨の動きが止まり、黒いオーラが出て、天に昇って行った。

 「このままでは魔族となって、悪事を働くところでした。どうか安らかな眠りを」

 ソフィは骸骨に手を合わせると歩き出した。 

 ソフィは森から抜け出すと30歳前後の女性と13歳ごろの男の子と8歳くらいの女の子が居た。

 男の子は俯いている。女性二人も暗そうな雰囲気を漂わせていた。

 男の子はため息を吐く。「お父さんはもう、帰ってこないんじゃ」

 母親もため息を吐く

「どうやって食っていけばいいんだろう」

 男の子は顔を上げる。

「僕がお父さんの後を引き継ぐ。」

ソフィは3人の後を通り過ぎる。去り際に紙をさりげなく落とした。

 男の子は紙を拾うと読む。

「冒険者講習会のお知らせだって?」

 ソフィはそのまま進む。

 男の子は紙を投げ捨てた。

「冒険者なんて登録料とかを取られるじゃないか!そしたら稼ぎが減るよ。」

ソフィは足を止めて振り返る。

「貴方が居なくなったら、誰が二人の面倒を見るんですか?」

 ソフィはそう言うと歩いて行った。


 ソフィが歩くと先に怪しい二人組が居た。一人は太っていて、一人は痩せている。

 太った男が足踏みをしている。

「あいつめ、来ないじゃないか」

 痩せた男は腕を組んでいる。

「こんなに待っても来ないなんて、しくじったと思った方がよさそうだ」

「しかし、なんであいつら、冒険者にならねえんだろう」

「それは、冒険者として依頼を受けると仲介料を冒険者協会にとられるからだ。でも、冒険者になると危険を教えてくれる案内状が貰えるし、ちゃんとしてるからトータルで行くと冒険者協会に登録した方がいいのに目先の欲に目がくらんで俺らみたいな闇の業者と取引しようとしてるのさ」

「しかも、あいつら自分は大丈夫だと思ってるからな」

ハハハと馬鹿笑いする二人の横を通り過ぎるソフィ

太った男がソフィを睨みつける。

「あんた、その空間魔法を施したポーチを俺にくれないか」

 ソフィは進む。二人の男は道を塞ぎ、痩せた男が座った眼でソフィを見る。

「なあ、あんた道具屋だろう。そのポーチを寄越せば命は助けてやるぜ」

 ソフィは両手に杖を持つ、左の杖に水色の紋章と右の杖に緑の紋章が浮かび上がった。

 足元に杖を向けると「Los(行け)と呟く」水が通路のように下に流れ、その後を風魔法が追う。

 細い男はソフィを掴もうとして、ソフィが避けると水が氷に変わっていて、その氷を踏ん男がバランスを崩した。太い男が細い男にぶつかると男は氷に沿って、滑っていき、氷を踏んだ太った男も後を追って滑って行った。

 ソフィはふぅっとため息を吐くと歩き出した。

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