第22話

「大嫌い!」


 そう言われたあの日から、里運は運命と言わなくなった。

 神崎先生がプリントを落としたときや、階段からこけそうになったとき、当たりのくじが入っていたとき。

 偶然でも、必然でもあいつは、不運や幸運なことがあれば、必ずと言っていいほど「運命」と言っていたはずなんだ。


「なぁ、里運!」

「如月ちゃん、一緒に帰ろ?」

「おい!」


 それなのに運命とは言わず、俺と帰ることも無くなった。

 ほんとどうしたらいいんだよ。


「小鳥遊お前、小鳥遊さんと何かあったのか?」


 里運のことを考えていた補習の帰り、俺は下駄箱で春日井先生に呼び止められた。


「……いえ、何もないですよ」

「何もないわけないだろう。お前の顔を見ればわかる」


 ほんとこの先生はなんで分かってしまうんだ。


「ありましたよ。里運と喧嘩しました」


 そう、ただの喧嘩だ。

 髪を多く切っちゃったときだって、三日、口を聞いてもらえなかった。

 ただの幼馴染同士の喧嘩なんだよ。

 そのときでもあいつは運命って――いたっ!


「お前もそうだが、何で困っているときに先生に相談してこないんだ」


 ぺしん、と春日井先生に頭を叩かれた。


「先生暴力は――」

「小鳥遊、先生はないろんな生徒を見てきた。毎日楽しそうにしているやつ、笑ってばっかりのやつ。ただな、いつもだ。困っているやつは先生に相談してこない」

「それは――」

「分かってる。先生に相談しても、解決しなかったり、さらにいじめられたりすることもあるだろう。でも、先生だってな、見てれば分かるんだよ。あのとき助けられなかったって後悔するんだ。辛いんだよ。それを分かってくれ」


 先生はそう言って、少し涙を浮かべていた。

 過去に何があったのかは分からない。

 ただ俺は先生の話を聞いて、里運との喧嘩を話そうと思った。


「先生、聞いてください俺、里運に」


 それから何分たっただろうか。

 俺は里運との喧嘩を先生に打ち明けていた。


「小鳥遊、それはお前が悪いぞ」

「分かってますよ」

「運命か。小鳥遊、何度も聞いているが、小鳥遊さんがああなってしまった理由を知らないんだよな」

「何回も言ってますが、知りませんよ」

「そうだったよな。その理由が分かれば力になれるんだがな」


 会ったときから運命と言っているんだ。

 会ったときから――


「あれ?」

「どうした、小鳥遊」

「いや、ちょっと気付いたことがあって。ちょっと行きたいところがあるんですけど良いですか?」


 そうだ、あのときも運命って言っていた気がする。


「そうか、だったら行ってこい!」


 俺は先生に背中を押されて走りだした。


「あいつなら、知ってるはずだよな」

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