第17話

「ナイスシュー、寿一!」


 試合は順調に勝ち上がり、俺たちは決勝戦まで勝ち上がっていた。

 点を決めたのは寿一だけ。

 俺は寿一にパスをしてアシストしてるだけだ。

 な、ほんとに俺、前の必要あるか?


「ありがとう、雄一」


 好セーブを連発していた雄一が、俺たちのところへやってきて、寿一とハイタッチをする。


「お前もナイスだったよ、蒼太」

「……ああ、ありがとう」


 雄一が俺の胸のあたりをポンと叩いてくる。

ナイスと言われるほど、活躍してないんだけどな。


「そうだぞ、如月。お前があそこで完璧なパスをしてくれたから、俺たちは勝ってる」

「そうか? お前がすごいだけだろ」

「いや、後ろで見てたけどほんとすごかったぞ? 運命ってやつじゃねぇか?」

「やめろよ、雄一」


 そんなただパスを出しただけで運命なんて言われたくない。

 運命なんていうのは里運だけで十分だ。


「ほんと、お前最高だったよ。俺と一緒にサッカーやってくれねぇか?」

「蒼太がいてくれりゃあ、俺たちも全国行けるって」

「……俺は――」


 里運がいるしな。

 あいつを放っておくわけにはいかない。


「悪いな。俺には――」


「じゃあさ、俺がお前より点取ったら、サッカー部はいってくんね?」


「は⁉」


 いきなり言われてもできるもんじゃねぇだろ。

 俺は思い切り首を振った。


「いや、無理だから!」

「悪い、決定事項だ! 次の決勝戦、俺はお前を超えていく!」

「話聞いてる⁉」


 お前を超えて行くって俺より強いんだけど?


「悪いな蒼太、あいつこういう奴なんだ」


 じゃあなといって、寿一がどこかへ消えていく。

 雄介に「悪いな?」と肩を叩かれた。


「いや、どうすんだよ。俺あいつと点取り合戦なんて無理だぞ?」


 どう考えてもブランクがあるし、実力が違いすぎる。


「まぁ、頑張れ。俺もお前にはサッカー部に入ってほしかったんだよ」

「お前も寿一側かよ!」


 ……あれ、まてよ? サッカー部に入ったら、如月に里運を押しつけられるんじゃないか?

 そうなったら普通に――


「頑張ってね。蒼太くん」


 そう思っていたら、どこからか里運の声が聞こえてきた。

 まぁいいか、負けるのも嫌だしな。

 こうなったらヤケだ。

 絶対あいつよりゴール決めてやる。

 

「さ、小鳥遊。俺を満足させてくれよ?」

「まかせとけ」


 そう言って、俺はボールを蹴った。

 敵チームの奴らが寿一に近づいてくる。俺は寿一からのパスを受け取り、そのまま真っすぐボールを蹴った。

 敵陣のど真ん中で跳ねて、ボールはゴールの近く。


「お、ラッキー。相手がミスしやがった」


 相手のゴールキーパーがボールを捕りにいく。

 ま、ふつうそう思うよな。

 だけど――


「一歩おせぇんだよ!」


 全力疾走でボールを追いかけ右足でトラップした俺は、ゴールキーパーを躱し、ゴールへとボールを蹴った。


「よっしゃ!」


 勢いよくゴールに吸い込まれていくボールを見て、俺は思わずジャンプしてしまった。


 これで一点!

 俺のもともとのプレーはスピードをいかしたワンマンなんだよ。


「やるじゃん」


 ハーフウェーラインまで戻った俺に寿一がそう言ってくる。


「まぁな」

「お前。やっぱりさっきまで手を抜いていただろ」

「手なんか抜いてないよ」


 手は抜いてない。

 アシスト側に回っていただけだ。


「まぁいいけどよ。今度は俺が決めるぜ!」

「させるかよ!」

 

 それから寿一が一点と決めるたび、俺はさらに点を決めていった。


「誰あの人?」

「ほら、運命ちゃんと一緒にいる」

「え? あの人、こんなにサッカーできたの⁉」


 ギャラリーたちが「嘘でしょ?」と本当に驚いた表情で俺たちを見つめてくる。


「さ、これで最後だ!」


 そう言ってボールを奪ってゴールを決めようとした瞬間、笛が鳴った。

 七対一。

 圧倒的な勝利だった。

 俺と寿一の点数はというと二対五で俺の勝ち。


 負けて悔しいのか、買って喜んでいるのか、どちらにも取れる表情で、寿一が近づいてくる。


「負けたよ、お前やっぱり強いな。俺と一緒にサッカーやって――」

「わりぃな、俺には世話しなきゃいけねぇ奴がいてよ」

「小鳥遊さんだろ? お前ら、付き合ってるんだもんな」

「付き合ってはねぇよ」


 あいつと付き合ってるなんて、ほんと誰が言いやがったんだか。


 早めに終わったし、あいつの様子でも見に行くか。

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