第15話
里運はじゃんけんで負けたことがない。
それが分かったのは小学六年生のときだった。
学校でじゃんけん大会が開催されたのだ。
全校生徒は三百人。普通だったら勝てるわけがない。そう普通だったらの話だ。俺はそのとき一回戦で敗退したが、そのときもあいつは「運命だよ!」と言って勝ち上がった。
しかも出したのは全てグーだったというおまけつき。
前に気になって調べたことがあるが、どこかの教授の結果によると、じゃんけんでグーを出す確率が一番高いらしい。
つまりその逆のパーが勝ちやすいらしいのだ。
それでもあいつはグーだけで勝ち上がった。
正直どれだけの確率かは計算したくもないが、普通じゃない。
「グリコ」
そう普通じゃない。
なにせさっきから負け続けてるんだからな。
「おい里運、もう止めにしないか?」
俺は、見えなくなっていく里運に向かって大声で叫んでいた。
席替えがあった日の帰り。俺は里運と普通に帰ろうとしていたが、いきなり里運は「グリコ」をしようと言い出したのだ。
当然負けることが分かっている俺は普通に帰るために、やらないとは言った。
しかし里運のやつはすぐにじゃんけんを始めたのだ。
その結果、里運はすでに見えなくなってきている。
「嫌だよ!」
嫌だよ、じゃないんだよな。
俺ここから進めなくなるし、ゲームができなくなるだけなんだけど。
まあいいか。
このゲームには必勝法があるからな。
そう必勝法。
このゲームをやったことがある奴なら、一度は使ったことがあるだろう。
地域によっては違うかもしれないが、公式ルールは「グリコ」は、グーで勝てば「グリコ」で三歩、チョキで勝てば「チヨコレイト」で六歩、パーで勝てば「パイナツプル」で六歩前に進める。
ただ、公式のルールってだけ。
そう、繋げればいい。
文字数を増やせばいいだけだ。
どれだけあいつが遠くに行こうと、一回勝てばあいつに追いつける。
追いつけばいいだけだ。
変に通り越して、負け続けて遠くに行かれでもしたら心配だろ?
というわけで――
「よし里運いくぞ!」
俺は遠くに行った里運に合図を送った。
「うん! 大丈夫だよ!」
「じゃあいくぞ」
「最初は――」
そうだよな、里運。お前はさっきからじゃんけんをするとき「最初はグー」って絶対言うよな。
そんなのは――
「じゃんけん、ぽん!」
「え⁉」
無視したらいいんだよ。
そもそもじゃんけんに「最初はグー」なんて昔はなかったそうだからな!
じゃんけんで負けなしの少女に勝つために、ある少女が使っていたテクニックをそのまま使っただけだが、里運も引っ掛かるなんてな。
よし、パーで勝ちっと。
「パイナツブル、ルビー、ビー玉――」
「あ、蒼太くん、卑怯だよ!」
里運がそんなことをいってくるが、俺は無視して一歩ずつ近づいていく。
ほんとあいつどれだけ勝ったんだよ。
何文字か繋げたが、まだ遠かった。
「――――すいかかめメダカ、っと。よし到着」
里運のすぐ後ろまで来た俺はゆっくりと腰を下ろした。
「ダメだよ、蒼太くん! ちゃんとルールは守らないと」
「守ったら、俺だけ帰れなくなるだろ?」
「勝てばいいんだよ、蒼太くん! ほら次いくよ、最初はグー、じゃんけん」
ポンと言った里運を見ず、俺は適当にパーを出した。
「え?」
なぜか里運の方から、あっけらかんとした声が聞こえてくる。
何があった?
俺はちらっと里運の方を確認した。
「グー?」
そうあいつの手はグーの形をしていた。
「えっとどういうことだ?」
今まで運命じゃなく、ただ買ってただけってのか?
そもそも運命自体が信じられないが。
ま、そんなこともあるってことだろう。
「えっといいんだよな?」
悔しそうな顔をする里運を見ながら、俺は必勝法など使わずに里運の前へと進んだ。
「パイナツプル!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます