第9話

 店内はカラフルなソファーが置かれた、今どきのオシャレな喫茶店だった。

 窓際の席に座り、さっきの男性にパフェとオレンジジュースを注文する。


 もちろん里運がパフェで、俺がオレンジジュース。


 里運が食べられなかったときのために、俺はパフェを注文しなかった。大人ぶってコーヒーを頼もうともしたが、里運相手にそんなことをする必要もないだろう。


「いや、ごめんね、きみたちを呼び止めてしまって。ここ商店街から少しだけ遠いでしょ? だからか分からないけれど、気づいてもらえなくてね」


 ほどなくして、店主がオレンジジュースと、特製のパフェを持ってやってきた。

 いちごとバニラのアイスの層が綺麗に重ねられ、カスタードの層の上にはいちご、クリーム、チョコスティック。クリームの上にのった店のロゴが入ったハート形の大きなクッキーが目立つ、美味しそうなパフェだった。


「いえ、そんなことは」

「きみたち、近くの中学校の生徒さんでしょ? よかったら友達とかにおしえてあげてくれると助かるな。あ、まずは食べてみないとだよね。じゃあ、僕は裏で片づけをしているから」


 そう言って、男性はカウンターの方へと戻っていった。


「ねぇ、食べていい!?」


 里運がスプーンを持ちながらこっちを見てくる。今すぐにでもよだれが垂れそうなくらい、待ってますといった表情だ。


食べていい? なんて聞かずに食べればいいのに。


「食べていいぞ」

「やった! じゃあ、いただきます!」


そういって、里運はクッキーを皿によせて、てっぺんのクリームとアイスの部分をすくって口にいれた。


「ん~っ、これ、おいしいよ!」


一口を味わい、幸せそうな声をあげた里運が、次々と上の部分をすくい口にいれていく。


「よかったな」

「うん!」


俺も頼めばよかった。

里運の幸せそうな表情を見ていると、なぜか無償に食べたくなる。


「蒼太くんも食べる?」


里運のたべっぷりを見ながら、オレンジジュースを飲んでいた俺の前にスプーンが向けられていた。


「いや、いいよ」

「え~っ! だってこれおいしいよ? ほんとだよ? 食べた方が絶対にいいよ!」

「お前の分がなくなるだろ?」


すでにバフェは三分の一ほど減っている。いつもは半分くらいで食べ飽きて残してるのに、鼻にクリームまでつけて、ほんと美味しかったんだろうな。


「じゃあ、私が食べさせてあげる!」

「ちょ、おい!」

「はい、あ~ん!」


里運が思い切り口にスプーンを押し付けてきた。


「ああ、もう食べればいんだろ?」

「はい、あ~ん!」

「あ~ん。って、これうま!」


口にいれた瞬間、クリームといちごの滑らかでとろけるような甘い食感が襲ってきたと思えば、アイスのひんやりしてシャリっとした食感が合わさってきて、口のなかでとろけた。


これ、ヤバい。

俺も頼んどけばよかった。


「ね、おいしかったでしょ?」

「なぁ里運、もう一口ーー」

「さっき、いらないっていったでしょ? だからあ~げない!」


そういって、里運は俺が口をつけたスプーンを何事もなかったかのように使い、パフェを楽しんでいた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る