第19話 とにかくぶちのめせ!

 レイスが、出てこない。


 さっきはあんなにしつこく追いかけて来たのに、探すとなると現れない。


「ふざけやがって!」


 そっちが、その気なら、俺はリザードマンたちの真ん中に飛び込んでやる!


 走って、走って、走って、転がる。


 ようやく俺は、見覚えがある場所まで戻って来た。

 まぁ、そうだよな。立体構造だから広く感じるが、地図を見るに、本当はそこまで広いわけじゃないんだ。


 だってほら、既に領域は狭い。

 狭……本当に狭いな。


 既に最終局面じゃない?

 思った通り、俺が先ほどモーニングスターを拾った部屋に入った時だ。


 ――ゴゴゴゴゴッ


 地響きと共に、ゲートが現れる。

 色は、青。


 脱出できる!


「なんでだよぉ!」


 後ろから、蟻の大群に追われてなければな!


 最悪だ!

 最悪過ぎる!

 馬鹿な事をしなければ、脱出出来ていた。


 いや、でも、待てよ?


 今、脱出したらどうなる?

 ロクにアイテムも揃っていない。

 このゲームの仕組みが解った以上、そんな状態では二度とデスゲームに挑戦しようなんて思わないだろう。


 だったら、俺はずっとレイスにビビったままになる。


「こなくそ!」


 だったら、全員ぶっ殺して完全クリアを目指す!

 俺は金属の扉にぶちかまし、ピラミッド部屋の中に転がり込んだ。


 ――キシッ? シャーッ!


 リザードマン達が一斉にこちらを向く。

 全部を無視して、俺はピラミッドの頂上まで駆け上がった。


 果たして、レイスは?



 ……居なかった。


 レイス君さぁ。

 空気を読もうよ。


 代わりにあったのは祭壇、そして宝箱だ。


 俺はソレすらも無視して、レイスが現れたピラミッドの頂点へ。


 そっ。


 抱えてきた蟻の卵をそっと頂上に置く。


 見た目はキレイな宝玉だし、なんかココに置けばイベントでも起こりそうかなって。


 ――シャーッ! シャーッ!


 もちろん、なんにもありませんでした。


 ただ、リザードマンたちが激怒しただけ。俺らの聖地を汚すなってね。

 で、奴らどうしたか?


 ――キシシッ! キシャーッ!


 魔法を放ったのだ。


 司祭みたいな帽子を被ったリザードメイジたちが一斉に。

 放たれたのはゴブリンメイジよりも、一回り大きな火球であった。

 みるからに高火力。それが幾つも。


 卵に命中するや、凄まじい爆発を生み出した。


 ――キィー


 爆炎の中から、蠢く虫のシルエットが見えた。

 あーあ、知らねぇぞ?


 ピラミッドの上から見下ろすと、怒り狂った兵蟻たちがリザードマンに襲いかかるのが見えた。

 しかも、止まらない。

 次から次へ現れて、さながら蟻の洪水だ。


 リザードマンたちはたちまち大混乱に陥った。


「今のうち!」


 俺は祭壇に戻り、どさくさに紛れて宝箱をご開帳。


 中には、白銀に輝く金属棒が入っていた。



≪ 祝福のメイス ≫

 ATK+45


 聖別された銀から作られたメイス。

 打ちつけると聖属性のダメージを与える。



 なんだよオイ。

 コレで倒してくださいと言わんばかりの武器。


 一層もそうだったが、綺麗なクリスタルソードを供物にしていたな。


 そういう攻略手順なのかも知れない。

 まず武器を手に入れて、それからボス攻略。


 だとしたら、蟻さんを巻き込んで大戦争を引き起こしてる俺って何なの?


 今も眼下では、蟻とリザードマンの血で血を洗う闘争が巻き起こっていた。

 リザードマンは火球で蟻を焼き払うが、あとからあとから蟻は湧いてくる。


「えらいこっちゃ、戦争や」


 訳の解らん事を言いながら、高みの見物。


 ――キシャーッ!


 もちろん許されるハズも無く、火球が飛んでくる。


 ――カチカチカチ


 蟻さんもやってくる。


 ヤバいよ!


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 蟻、リザードマン、そして俺。

 三つ巴の戦いが始まった。


 新武器のメイスで叩けば、あんなに強かったリザードマンも一撃でお陀仏。

 でも、リザードマンを掃除してしまうと蟻さんが止まらない。


 基本的に逃げ回るのが正解だ。


「ひえぇ」


 魔法的な電撃をギリギリで躱す。蟻さんがまとめて焼き殺されるが、次から次へと湧いてきてリザードマンもおちおち魔法を使っていられなくなる。


 時たまやって来る肉弾戦指向のブロードソードと盾で武装したリザードマンはメイスで容赦なく吹っ飛ばす。


 どのぐらいそうして戦っていただろう?

 気が付けば蟻の流入が止まっていた。今居る百匹ぐらいで打ち止めらしい。

 だが、リザードマンもボロボロでまともに動ける個体は少ない。


 戦いも終盤。

 そんな時だ。


 真っ黒な霧が目の前に現れたのは。


「死ね!」


 ノータイムで殴りかかった。


 ――ゴアァァ


 腹に響く呻き声。


 効いた!

 霧の状態で、攻撃が通った!

 レイスが姿を現す。


 ――ガァァァァ!


 今までの、いけ好かない余裕っぷりが嘘の様だ。

 怒り狂って噛み付いてくる。


「ホラよ! ごちそうだ!」


 その口の中、蟻さんを投げ込んだ。

 グチャリと潰れる。


 ――カチカチカチ


 すると、兵蟻たちは恐れを知らない。果敢にレイスに突っ込んで行く。

 まるでダメージにはなっていない様だが、行動は阻害するようだ。


 俺はこの隙にポーチから攻撃薬を取り出して、一気飲み。

 さらには、アクセサリーをDEF重視から、ATK重視に。ATK+15ぐらいかな。

 合計で60。弱点属性で威力は倍になるか? 攻撃薬で更に倍?


「ヒヒッ!」


 面白くなってきた。

 そんな俺の背中に激痛が走る。


 蟻に噛まれたのだ。


「邪魔すんなよ!」


 猛烈に痛い。

 今までだって何度も何度も噛まれてきたが、DEF寄りにしていたからそうでもなかっただけだった。

 肉を抉られる強烈な痛みに変わってしまった。


「離れろ! 離れろって」


 てなもんで、猫の手で背中を掻くように、俺はメイスで背中を払ってしまう。


 グチュ。


 蟻さんが背中で潰れる。


 ――カチカチカチ


 蟻さん超激怒。うーん困ったね。


 俺は最後の回復薬を一気に煽る。

 背中の痛みは引いたが、状況は最悪に近い。


 気が付けば、闇の収束も近い。

 ピラミッドの外側は、既に闇に飲まれていた。もうドコにも逃げ場など無かった。


「やったらぁ!」


 俺はレイスに殴りかかる。

 こうなれば、もうコイツをぶっ殺す以外にないからだ。


 ――グォォォ


 レイスも俺を殺しに来た。

 不定形の泥みたいな体が、手を槍みたいに尖らせる。


 紙一重で躱すと同時、俺はその手をぶん殴る。


 グチュ。


 あんなに固かったレイスの体が潰れる感触。

 凄まじい火力だ!


 一気に決める!

 追撃するべく、一歩踏み出す。


 その足を貫かれた。ブーツを槍が貫通している。

 レイスが、地面の下から攻撃してきた。


 コイツは霧になって壁を貫通出来る。だったら変形した体の一部でこんな攻撃も出来るってか。


 ――ギギギッ


 俺の足を封じたレイスは、のっぺらぼうの顔をパカリと分割した。

 頭を噛み潰すつもりだ。


 甘ぇよ!

 ――ブッ!


 吹きかけたのは、口に含んだ回復薬。

 お前はコイツも弱点だろ?


 ――ギュァァァ!


 怯んだ隙、俺はメイスを握り締め、バットみたいに振り抜いた。


 ――ガァァァァァ!


 部屋中に響く、レイスの悲鳴。

 怖気が走る不気味さだが、今はこの声が心地良い。


 モーニングスターじゃビクともしなかったレイスの体、それが気持ち良く吹っ飛んで行く。


 太ももに刺さった槍も抜けた。

 さぁ追撃、と言う時だ。


 火球が迫っていた。


 リザードメイジの放ったモノだろう。

 既に躱しようがない至近。

 え、あっ? 死?

 俺、死んだ?



 違う!



 俺は再びメイスを構え、フルスイング!

 横から引っぱたいた。


 ――ドォン!


 爆発音はレイスから、奇跡的なバッティングセンス!!


 ――ギィィイィ


 物理攻撃じゃないから、当然効く!


 痛む右足を引き摺って、追撃。

 取り出したのはサバイバルナイフ、それをレイスの顔面に突き立てた。


「うぉぉぉぉ!」


 ナイフの柄に向かって、俺はメイスを振り下ろす。

 釘を打ち込むように叩き込んだ。


 ――アァァァ!


 切ない悲鳴を残し、レイスは消えた。

 それと、同時。


 ――シャララーン


 スマホのアラーム。


 そして、俺の意識は白に飲まれた。


 スマホには、congratulationの派手な飾り文字。

 システムメッセージが添えられていた。


≪ 二層を攻略しました 報酬を受け取ってください ≫

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