第7話

***



「別居してください」



と妻が言ったとき、



僕は「はい」と答えただけだった。



離婚してくれと言われたらどうしようかと思ったけど、その心配はなかったようだ。

虹夜はそれ以上何も言わず、黙って荷物をまとめて家を出て行った。



離婚しなかった理由は簡単だ。

彼女はまだ 僕を愛してるからだ。



結婚して3年経つが、今でも変わらず愛していた。

彼女は美しくて優しい人だった。俺にはもったいないくらいの女性だったと思う。

でも今はそんなことは関係ない。とにかく彼女が居なくなって寂しかった。悲しくて辛かった。



毎日泣いて暮らした。



だから、もう二度と離れたくないと思っていたのだ。



それから 1か月ほど 経った頃だろうか。



ふとした瞬間に気が付いたことがある。

彼女のことを考える時間が減っているのだ。思い出す回数も少なくなっている気がする。


(どうしてだろう?)


不思議でならなかった。



その理由は すぐに分かった。



そう言えば 彼女と別れてから 一度も会っていないのだ。

別れたと言っても 籍を抜いているわけではない。


だから当然と言えば当然なのだが、それに気付いた時 愕然とした。

そして 自分が彼女に執着していないことを思い知って また落ち込んだ。

だけど しばらくするとそれも慣れてきた。



今では ほとんど、気にならなくなっている。



むしろ 前より 楽になったような感じさえあった。



――果物ナイフの刀身を抜いた。


いつから持っているのか?

どこで買ったものなのか?


……まったく覚えていない。


ひょっとしたら、学生の頃に『時代劇』の土産コーナーで購入したのかもしれない。


黒い刃を見るたびに、心穏やかになる。


そのナイフが ささやくのだ。



『憎い。にくい……。あの女に 復讐して――』



僕はいつからか、その声に 愛おしさを覚えていた。



大丈夫だよ。



僕が代行してあげるから、悲しむなよ……。



(さぁ、次は どの女にする?)



***

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