第11話

 話の最後に世界に変革をもたらす三つの神器についてルルティア話した。


それは手の平に収まる硝子細工ガラスざいくでまるでチェスの駒のような形。


そして夕暮れの暗がりに置いてもその内から«ぽうっ»と淡い光を放ち、

純白のテーブルクロスを灯した。



 一つ【キングクラウン】


  どんな願いも一つだけ叶えることが出来る。

 さらに場所、対象者を問わず、盟約をも無視出来る力を与えるこのできる一器。




 二つ【クイーンティアラ】


キングクラウン程の力はないが、

所有者のみ盟約を一つ無視出来る一器。




 三つ【ジャックエンブレム】


世界も、盟約も、変えることは出来ないが、

所有者の希望を一つ叶えることが出来る一器。

希望した内容は秘密にしなければならず。

暴かれると叶えたは消滅する。



 「この三つの神姫がそれぞれの国王にわたってからというもの世界は再びその力を奪い合おうと戦争が激化してしまったのです。」




 戦いの根源であり、根源を絶つ為の切り札となるそれらは

争いの火種そのものである事すら忘れるほどに美しく輝く。







 「と、まあここまではちょっとくらい話になってしまいましたね!

ユウマ様には今は直接関係のない御話ですし、

今日はユウマ様とアリスの祝会なのでもっと楽しい話をしましょう。

あ、でもその前にユウマ様の泊まる場所も決めないと!!」



 声色を黄色に変え小さな手合わせをすると、

アリスは凛とした顔のまま席を立った。


 

「すみません姫様、私は一足先に失礼致します。

彼の処遇については既に決めていますで大丈夫です、では。」


 「あら、もう行ってしまうのですね・・・」


 「すみません、せっかくの機会なのに、明日も朝が早いので」


 「え!?お、おい・・・ちょっとどこ行くんだよ!」


 「貴方は食べたら外で待ってなさい、後で迎えに行ってあげるから」



 駄犬をしつけるような冷たい言い方。

いっその事ワンと鳴いてやろうか!


遠吠えでもしようかと思ったが姫と言われる人物を前に無礼かと一考。



 「俺らの祝会って言ってるんだし・・・」



 今度はなだめるようにゆっくり話してアリスを席に戻そうと

試みたが彼女は既に大扉のに手をかけている。


 

 「待て!せめてこの肉だけでも!」



 王姫に返事をし部屋を後にするアリスを追いかけながら、

テーブルに盛られた豪勢なお肉を一切れ口に頬張り立ち上がる。


 口にひろがる芳醇な肉の香りとオニオンソースの甘辛い酸味に

表情がとろける。


 そしてそのままルルティアに大きく一礼し追いかけた。


 それを見送った後ルルティアは肩を落としながらも、

リーファに小さく笑顔を作って見せるのであった。―――



◆◆◆




―――城入口




 外はすでに夜を迎え、

寝静まろうとする黒い町を沢山のカンテラが彩る。


 木の葉をさする夜風は春風のように生暖かかく心地いい。



 「ちょ、待ってよ!なんでそんなに怒ってるんだ!」



 城を出てから何度か呼びかけたがずっと無視しを決め込み、

早足で歩くアリスの腕を掴んだ。



 「別に怒ってないわよ!

私はこの国に危険が迫っているのに貴方みたいな危機感のない人が来て、

そんな人に自分が助けられたって事実が恥ずかしいだけよ!」



 ❝それ怒ってんじゃん❞


なんてことは思っても言わない、余計に怒るから。



 「どうせ貴方も他の勇者みたいに元いた世界に帰りたいってタイプでしょ?」


 「他の勇者!?

それって他にも日本からここに来たって人がいるってことなのか!?」


「いいから離してッ!」


そういってアリスは軽く腕を払うと

彼女を掴んでいた五本の指は目には見えない圧倒的な力で

パッと開かれ、腕ごと平たい板に打たれたように弾かれた。

 


 『なんだ、今の・・・いや、それより』



 もし仲間や話の分かる日本人がいれば、

なにかと便利を図ることが出来るかもしれない。



 「ニホン?そういうのはわからないけれど、

この世界に召喚された人間は何人かいるし各国にもいるわよ」



 英雄や異世界召喚者の話をアリスはめんどくさそうにしながらも話してくれた。


 話によれば、この世界では異世界召喚や転移者は珍しい事ではないらしい。


 前の世界で本当に勇者として戦っていた者、

空を飛び夢の国と呼ばれる場所に住んでいた者、

魔王として世界に君臨し圧倒的な力で人々を苦しめていたもの。

この世界で勇者と呼ばれる者はさまざまな過去を持つが、


 この世界ではそれらは役に立たない。


 ゲームに関するもの、

また制約を無視するような力はそもそも発動出来ないからだ。


 先程アリスに振り払われた見えない力もこの世界の制約による

加護のようなものらしい。


 この世界では、

人を力で支配することは出来ない制約によって構築されているらしく、

無理に通すことも敵わないらしい。


 かつて魔王だった者や、

世界の覇権を握った英雄達は農民達にゲームで敗れ続け、

今では慎ましく農家に勤しんでいる。


 現に夜の街を歩く中で、農作業を終えたのであろう

漆黒のローブに長い角と頬を割る牙の生えた如何にもな人物が


「見よッ!この闇の支配者が地を支配した結晶ッ

悪魔の果実をッ!!」


と天高々に掲げ、部下なのであろう小さな二本角を生やした

人物が

耳まで裂けた大きな口で声高らかに賛美していた。



 「わかった?この世界じゃゲームが全て。異能も、魔法も怪力も通用しない。

頭と運のいい者だけが勝者よ。

 でも安心していいわ。ゲームには拒否権があるし貴方のような

❝頭脳戰のいろは❞も知らない間の抜けた人間でも

当面私がお世話御してあげるから。」



 棘に棘を付け足すような嫌な言い方。


ここに来てからろくな事なことが一つもない。


つもりもったに苛立ちに

膨らんだ堪忍袋にその棘が刺さってはパッと爆散。


「さっきから黙って聞いてれば・・・

ここにきてからずっと俺を馬鹿にしてないか?・・・

英雄様はそんなに偉いのか?」



「少なくとも勇者とか言われて勘違いに浮かれた人間よりは偉いと思うけど?」



 自分は被害者だというのに期待外れのような物言いを、

ことあるごとに言われている気がして正直面白くない。



「それはそれは、さぞかし英雄様はその達者な頭脳で

私めには及ばぬ先見の明を御持ちなのでしょう。

いやあ恐れ入ります英雄アリス様」


「そうね、貴方よりは頭は良いと思うけれど。」



 皮肉も意に介していないといった様子で

清ました顔でアリスはこちらに聞こえるくらい大きなため息をついた。



「ふーん、何が英雄だよ。

どうせ運勝ち運ゲーマンで英雄になったってオチだろ?」



 冷やかしのつもりだった。


 だがどうにも気に障ったらしい。


アリスは腕組みをし、大きく瞳孔が開いた。



 「運勝ち!?ちょっとそれは聞き捨てならないわ。

私は別に英雄と言われても嬉しくないし。

英雄だと思ってないけれど、

自分の努力で積み上げてきたものを

運ゲーと言われるのは心外よ!」


 「はっ、図星を突かれて取り乱すのなんて

大英雄様のメッキは随分と薄いんだな!」


「に、二度も言ったわねッ!!」



二人のいがみ合う声はいつしか大きくなっていき

気づけば怒号にも似た声がカンテラを揺らめかせていた。




「いーーわ!

だったら私とゲームよ!【決闘】よ!」




「【決闘】だ?上等だっ!

勝った方は相手の言うことなんでも一つ聞く!

いいな!」



「自らレートを決めたわね」



 先程まで怒りに吊り上がったアリスの目尻は

薄気味悪くじわりと下がり、


罵詈雑言を叩き並べた猛獣のような口は

色気付いた乙女のように紡いだまま口角を上げる。



 「それどうした!怖気付いたか」


 「ふっ、本っ当にバカね!!

いいわ。実力差がはっきわかる上に運なんて一切絡まないシンプルなゲーム【知恵競サジェスト】で勝負よ!」




二人は剣で鍔迫り合いでもするかのように互いに人差し指で相手を指し詰めた。


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