第5話

―――「リーファはどうした?。」




 「自分の国に帰らせたわよ、

あの子はこんな大勢の兵士相手に戦える娘じゃないもの。」




 先ほどの大広間。


 築かれた高台の上で横に立つアリスに目を配るが、

 彼女はしれっとした顔でじっと前を見つめたままだ。


 初めにこの部屋の扉を開いた時との状況と見える景色が少し変わって見える。


 澱めく群集の視線、

こうして改めて見てみれば皆恰好がみすぼらしく生活の貧しさが窺える者ばかりだ。


 よれた衣服、無作法に縫われた袖口、

 老若男女の姿が確認出来るが皆共通して痩せ細っている。


 異常なまでとは言わずとも皆が皆というのは異常といえるだろう。


 もう一つ変わった事といえば後はこの現状だ。


 手足は木の枷に捕まり、足首には繊細な銀の鎖が雑に脚に巻かれ、

その鎖の先はアリスの鎖と合流し、大きな鉛玉に繋がっている。


 特にどうすること出来ず足元の様子を探っていると、

先ほどのざわめきは嘘のようにぴたりと止んだ。




「ハートレリア女王様の謁見である!!静粛に!。」




 喉の無い兵士の声が広間に響くと共に、


 女王の間から真紅の布が音を立て素早く退き、

 この異様な空間の首謀者が姿を現す。


 一斉に首を垂れる観衆には目も留めず、

身の丈以上の大きさと赤と黒に侵されたハートの玉座に腰を据えた。




「さて、ゲームを再開するとしましょうか、アリス」




 面妖な声色は少し上から撫でるように耳に流れ込む。




 「とんだ邪魔者が入ったから一体何かと思ったけれど、

取るに足らない相手だったわね」




「ミレディ!このゲームにこの人は関係ないわ!解放しなさい。」




 生易しく語りかけるハートレリアの主君 


―――ミレディ・フレア・コートとアリスの冷たい声の温度差が一層辺りを緊張の渦に巻き込む。



 「御黙りなさい・・・アリス。貴女の身の程知らずには怒りを超えて呆れるわ。

貴方に許したのは、

そこの生か死か運命が決めるカードを選ぶこと他になくってよ?」




 狂気が垣間見えたが、すぐさまそれを不敵な笑みに隠す。


 そこのカード


 ―――それは二人の前に築かれた石段の上に並べられた

二枚のカードの他に存在しない。


 二枚のカードは丁度トランプ程のサイズで、

絵柄も色もないどこにでもあるような紙切が伏せられている。




「おーい女王様!よくわからないんだが俺とこのアリスって子を解放してくださいませんか?きっと美しい女王様に嫉妬して悪いことしたと思うんですけど、俺からもちゃんといておくので。」


 


 死刑だかなんだか知らないがその判決を運で決めようとしているくらいだ。


 そんな安易な考えの裁判くらい謝れば許してくれないこともないだろう。


 そう判断した。


 アリスにも謝るよう肩を寄せ促してみたが、彼女は顔を赤らめ唇を噛みしめるとそのあとの表情を髪に隠すように深く伏せてしまった。


 代わりに女王の間から甲高い笑い声が場内に響き渡る。


 しばらく笑うと、飽きたように声のあるため息をつき、

何事もなかったかのように会話を再開した。




 「まさかアリス、貴女のお友達はルールも忘れ、

あまつさえ命乞いの仕方もわからない躾も品もない動物だったのかしら?

それとも本当にルールを知らない非常識人なのかしら」




 その質問内容と少しおどけた口調は小馬鹿にされている。

加えた同情の念で圧アリスの肩を少し高くした。




「いいわ、本来は私に許可なく口を訊いた罪ですぐにでも首を跳ねてあげたいところだけど、その道化ぶりと無知なまま死んでいくことの同情さに免じてこのゲームの概要を教えてあげる。」








―――ゲーム【七八の導き手】《タロット》


 難しいルールや規則は存在しない単純明快なゲーム。


 今回は並べられた表絵の伏せてある二枚のカードにはそれぞれ


 【生】を象徴した神獣のユニコーンの絵と


 【死】を象徴とした死神の骸の絵が描かれている。


 それらどちらかを引き、その絵に準えた判決が下るというもの。




 また王政権、もしくは命を懸けたゲームのみ物に名前や効力がある。


 今ゲームには直説関係は無いがゲームを行う場所を規模、状況、空間を問わない


 台や机の有無に関わらず




 【円卓戦場テーブルボード


 




 通称テーブルと呼ばれる場所のみで勝敗を決定する。


 今回の場合この石で築かれた石台がテーブルを指す


 ゲームを行う場合必ず互いが納得できるモノを賭けなければならない


 どちらかが納得で出来ない場合は。




 【平等制裁の天秤サンクシオン




 と呼ばれる透明な箱に入った小さな天秤の傾きで賭けられたモノ同士の価値が決定される。


今回賭けに出されたのは


 


 ミレディ側は


・ハートレリアへの不法侵入による犯罪者でありアリスの友人、

ネフェニルの命




 アリス側は


 ・自らの命


 人の命を象徴するかのように、

顔の彫られた金貨が乗せられていた。




 【生】のカードを引けばネフェルの命は釈放、一度自国に足を踏み入れるまでその生死をミレディは問うことは出来ない。


 【死】のカードを引けばアリスの命はなく、ついでにユウマの命もない


このゲームはいくつかの盟約と絶対的な制約に基づいている。








 ―――以上がミレディの説明で理解できた内容だ。


 だがおかしい、どうして自分の命がついでに賭けられている。

つい首を傾げてしまった。




「牢監獄の中で説明したじゃない!?」




 心を読まれたのか、

かすれるくらい小さな声で囁いたのはアリスだ。




 「それに何度も言うけど、このゲームには勝ち目は万に一つもないのよ!どっちも【死】のカードが伏せられているのだから。」


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