第12話


 あのあと、俺は公園から少し離れたところで【地図】スキルと深淵の耳当てを使って様子を見ることに。


 するとしばらくして警官が公園へ来て色々と調べていて、クロヒョウがいたらしいだの子供の見間違いかもしれないだの言ってたから、どうやら俺とあの少女の件で通報されたわけじゃなかったっぽい。それにしても、公園にクロヒョウが出現するなんて物騒だなあ(すっとぼけ)。


 その結果、警察には大事ではないと判断されたのか、周囲に規制線が張られることもなく、ほどなくしてパトカーに乗って引き揚げていった。まあ猛獣が暴れ回った痕跡なんてまったく見当たらないわけだしな。ちなみにテントは【倉庫】に仕舞ってあるので、不審物として調べられることもない。


 さて、そろそろ異世界へ行こうかってことで、俺は公園へ戻って《リンクする者》の称号を使い、ジャンプして高い場所に空間の歪みを作り出した。それも、このステータスで跳躍しないと届かないような場所だから誰かが触れる心配もない。


 歪みに触れると、電気のようなものが体に走るとともに周囲の景色がぐにゃりと捻じ曲がって公園から洞窟になる。もう慣れたもんだ。その足で出入口まで一気に走ると、外の様子を探ってみることに。なんせ昨日、モンスター祭りが派手に開催されてたからな。細心の注意を払わないといけない。


「…………」


『深淵の森』は、昨日とは打って変わって嘘のように静まり返っていた。どうやらモンスターたちはあれから興奮状態が解除されて元の場所へ帰っていったらしい。ってなわけで入口を塞いでいた岩を押してどかすことに。


 うーん……このままでも充分いけるんだが、ちょっと重い感じがするな。300ポイントじゃ足りないので、腕力値にステータスポイントを100ずつ追加して楽になるところを探ってみるか。お、300ポイント振って600を超えたところで、片手でも軽々と押せるくらい楽になった。


 300ポイントごとにガラッと変わる感じだし、小=100P、中=200P、大=300Pってところなんだろう。ここでステータスを確認しておくか。


 名前:上村友則

 レベル:302


 腕力値:601

 体力値:301

 俊敏値:301

 技術値:301

 知力値:301

 魔力値:301

 運勢値:301

 SP:610


 スキル:【暗視】【地図】【解錠】【鑑定】【武器術レベル2】【倉庫】【換金】【強化】【年齢操作】【解読】【覇王】【物々交換】【変化】

 称号:《リンクする者》

 武器:蛇王剣 鳳凰弓 神獣爪

 防具:仙人の平服 戦神の籠手 韋駄天の靴 安寧の指輪 エデンの首輪 深淵の耳当て


 まあこんなもんだろう。腕力以外のステータスは様子を見て上げていく感じでいいかってことで、岩を押し出して外へ出ることに。


 ふう……今度はどこへ行こうか。昨日は入り口のほうへ行ったし、今度は森の奥へ行くのも面白そうだな。よし、そうしよう。パーティーで行動してたら絶対怒られる選択だが。やっぱり誰にも縛られずに自由気ままに動くのが一番楽しい。


 俺は鼻歌交じりに、【七大魔境】の一つと呼ばれる『深淵の森』の奥地を目指して進み始めた。【地図】スキルのおかげで、目印が表示されて道に迷わなくて済むから本当に楽だ。


 ――ん……? 今、どこからか咆哮のようなものが聞こえてきたような……。ってなわけで俺は立ち止まると、その方角で何が起きているのか、【地図】と深淵の耳当てを使って確認することに。


『ウッホオオオオオオオッ!』

「がはっ……⁉」


 見えた。バカでかいゴリラのようなモンスターと槍を持った騎士っぽい女が戦っていたが、あまりにもゴリラが優勢すぎて、戦闘しているというより女が蹂躙されているといったほうが正しいのかもしれない。


 全長4メートルはあろうかという超大型ゴリラの丸太のような腕が唸るたび、命中してもいないのに女は紙切れのように吹き飛び、地面を転がっていた。


 ただ、やたらと俊敏なだけでなく身軽で、落下するたびに受身を取っているのがわかるので女のほうも只者じゃないはず。近くにはイービルアイの姿もあるので、ノルンたちが言っていたマジカルユーチューバーってやつかもしれない。


 とりあえず助ける前にゴリラのステータスを【鑑定】スキルでチェックだ。それによって倒すべく戦うか、あるいはあの女を助けてここから逃げるかを決めるつもりだ。もちろん、余程のことがない限り倒してやろうとは思ってるが。


 モンスター名:キングゴリラ

 レベル:255


 腕力値:800

 体力値:500

 俊敏値:500

 技術値:300

 知力値:250

 魔力値:50

 運勢値:150


 うわ、こりゃ凄いレベルとステータスだな……って、ポイントを全部振ってないだけで302レベルの俺のほうがずっと高いのか。ただ、振らなくてもこっちには伝説の武器があるからな。とりあえず急ぐためにも300ポイント俊敏値に振って戦ってみよう。


「なっ……⁉」


 走り出した途端、思わず声が出てしまう。今ある全ての景色を、丸ごと置き去りにしてしまうほどのスピードだったからだ。なのに木々にぶつからないのは、【地図】スキルで障害物の位置を完璧に記憶できているというのと、それだけの身体能力を有しているからなんだろう。


 まもなく、黒い怪物――ゴリラの姿が間近に迫ってきた。


『――ウホッ⁉』


 おっと。速すぎて行き過ぎてしまったが、そこはさすがキングゴリラ。俺の存在をあらかじめ感知していただけでなく、こっちに向かって図太い拳を振り下ろそうとしていた。


「当たるかっ!」


 俊敏値600以上+韋駄天の靴による驚異的なスピードを舐めちゃいけない。超大型ゴリラの黒い手が地面を叩くときには、既に俺はやつの後方に回っていた。


『ウ……ウッホオオオオオオオッ!』

「うっ⁉」


 ゴリラは振り返ってきたかと思うと、雄叫びを上げるとともに自身の胸を叩き始めた。いわゆるドラミングというやつだ。一種の威嚇のようなものだろう。


「い、いけない……! 避けて……!」

「えっ……」


 それまで戦っていた女が、地面に伏せた状態で注意を呼び掛けてきた、その直後だった。顎が外れるんじゃないかと思うほどにゴリラが口を大きく開けていて、そこから光線のようなものが放たれたのだ。


『オオオオオオオオォォッ!』

「ちょっ……⁉」


 咄嗟にかわしてみせたが、結構危なかった。俺はゴリラを見据えたまま【地図】スキルで後方を窺うと、光線が当たった木々は見る見る葉が枯れ落ちていくのがわかった。もし当たっていたらどうなってたのかと思うとゾッとするな……。


 今度はこっちの番だ。俺は何の武器を使おうか少し迷った結果、【倉庫】から蛇王剣を取り出すことに。


 神獣爪だと、破壊力のある相手に接近することになるから危険だし、だからといって遠距離から鳳凰弓で攻撃すると仕留めきれず、逆に光線で反撃を食らうかもしれない。それなら中距離向きで威力も大きい蛇王剣がいいと判断したんだ。


「これを食らえっ!」

『ウホォッ⁉』


 蛇王剣の剣先がしなり、横に避けようとするゴリラの右脇腹を突いたときだった。剣がやつの体内で八つに分かれ、鮮血とともに周囲に飛び出すのがわかったが、ゴリラはそれでも果敢にこっちへ向かってこようとしていた。


 なんて執念だ……って、外部に飛び出した血まみれの蛇たちが一つに纏まって分厚くなったかと思うと、それがゴリラの脳天から下半身まで貫通し、地面に突き刺さった。


『オ……オゴオオオオオオオォッ……!』


 キングゴリラの断末魔の悲鳴が周囲にこだまするとともに、存在感のある巨体が見る見る消えてなくなっていく。


 これが、【武器術】における、蛇王剣のレベル2のパターンなのか。対象が息絶えるまでスキルレベルの低い順に発動するんだろう。滅法強いんだが、それ以上に滅茶苦茶えぐいな、こりゃ……。

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