第1話 適性

「ぐぁぁぁぁぁ、ああああああああ!」


画面の中では、男性が苦しげに悶絶している。

会場の空気は凍りついていて、先程までのワクワクソワソワした空気とは大違いだ。


このトラウマビデオを上映しているのは、日本ダンジョン探索者協会ー略称、NDKである。

もちろん、なんの意味もなくこんなビデオを流している訳ではない。


ダンジョンに入るためには俗に言うダンジョン適性というものが必要だ。


実際のところ「ダンジョン適性」というものがいったい何なのかということについては、全くわかっていない。

一つ判明しているのは、適性のない人が入ると、ビデオの中の男性のように苦しむハメになるということだ。


そして、この悶絶し続ける状態で4分ほどいると死ぬ。お分かりの通り、実際にこれで死んだ人がいるから判明していることだ。


ダンジョン適性を測る方法は一切なく、その人がダンジョン適性を持っているかはダンジョンにw入ってみないとわからない。

つまり、このダンジョンイベントでダンジョンに入ってみるまで、自分が適性を持っているか一切わからないということだ。


と、映像が切り替わった。

どうやら豪華二本立てのようである。


「おい!もっと弾幕強めろ!」

「今やってる!くそ!やられた!」

「うわぁぁぁぁ!」


おそらく、ダンジョン災害に対応する探索者たちを写したものだろう。

探索者たちは超人的な身体能力や魔法で魔物たちの対処にあたるものの、次々と死を迎えていっている。


その凄惨な光景に、会場の中で結構な人が口を押さえ始めた。


俺も少し気分が悪いが、なんとか堪える。


たとえこんな感じの現実に直面したとしても、俺なら生き残る––––そんな、根拠の無い自信があるからだ。


映像の再生が終わり、壇上へ司会の人が上が

った。


「いかがでしたか?今ならまだ引き返せます。もし……これを見てもなお、ダンジョンに入りたいと思う方は、こちらの誓約書へのご記入をお願いします」


誓約書というのは、よくある事故死しても損害賠償請求とかはしませんよ、というやつだ。


ここに集合しているのは、日本ダンジョン探索者協会の厳しい審査を通った『善良な人』だ。

それも影響してか、結構な人が会場の出口へと向かう。

俺の両隣の人も、トボトボと帰って行った。


あの映像を見せたのは、命の危険があるということを再確認させる意味があったのだろう。


「ふむ。残ったのは……100人ほどですか。では、席を詰めていただけますか?」


そして、人の流出が止まった後。

司会の声に合わせて、残った百人ほどが、前の方の席へと進んだ。

そこで俺は、見覚えのある人物を発見した。


いつもとは違って目がしっかりと開いているのでわかりにくいが、あれは星野だ。


まさか、同じ会場にいたとは。


挨拶しようとしたものの、星野はこちらに気づいた様子はなく、一番前の席へと着席した。

俺は話しかけるのを諦め、手近な席へと座った。


「えー、では、今から誓約書を書いていただきます。書けた方から、ダンジョンへご案内させていただきますので、私の方まで来てください」


と、司会はそこで一旦言葉を切って、一旦会場を見渡す。


「毎回、必ずと言って良いほど、このイベントには死者が出ます。もちろん、我々も最善は尽くしますが……それでも、どうにもならない場合もあります」


最後の通告。

しかし、誰も立ち上がらなかった。残った人は覚悟を決めたようだ。


「では、只今より用紙を配布します」


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