第5話◆十日後にやらかすグラン&巻き込まれるアベル――五日目

 さすがリリーさん、妙な薬草をたくさんストックしていた。もちろん透明ポーションの材料も持っていたので売ってもらった。

 ついでにアベルにお願いして王都まで行って、透明になる系の素材を追加してきた。

 ものすごく俺を疑っているような目で見られたが、大丈夫だ何も問題ないし、まずいこともしていない。

 俺の過去の実績をもっと信用してくれ!!




 その材料を抱えて今日は倉庫のスライム部屋に引き籠もり。

 植物繊維を溶かすスライムになる予定のスライム達に餌を与えた後は、残っている無垢なスライム達に昨日買ってきた透明になる素材を与えてみる。

 スライムゼリーが付着したものが、雑にでも透明になって衣服が溶けているように見えないかなって思っている。

 残っているスライムで実際に透明になる系の素材と、擬態する系の素材の両方を試してみることにした。

 しかしそんな簡単に透明になるスライムゼリーができてしまうなら、世に透明になる薬剤がもっと安く出回っているはずだ。まぁ、ダメでもともとだと思ってものは試しである。 うっかり性能のいい透明ゼリーができたら、透明ポーションにして金儲けもできそうだ。

 なんだかんだで透明素材を集めるのに結構金を使ってしまったからな。びっくりするような新製品を作り出して一山当てるのも悪くないな!

 はっはっは、スライムちゃん立派な透明スライムになってくれ!!


 ん? アベルが様子を見に来たぞ。

 何を作っているのかって? 


 ヒ  ミ  ツ  ☆


 なんだよその人を疑うような目は!

 え? 水槽に貼ってある絵は何かって? 刷り込み学習の検証?

 スライムが可愛い女の子を好きになるかなって? なってどうするか?

 ええと、それは……ヒ・ミ・ツ・☆

 べっべべべべべ別に俺が好きだから貼っているわけじゃないぞ! これは検証のためだ!

 だだだだだ大丈夫だ、何も問題ない。

 成功すれば大儲けできるかもしれない研究だから、安心しろ!!


 よっし、大儲けのために透明ポーションについてもう少し調べないとな。

 透明ポーションの原理は、振り掛けた対象を透き通らせるのはなく、背景に擬態させるという幻影効果のものが主流だ。

 こちらの方が同じ結果でお手軽でコスパも性能もよく、俺の調合スキルでも作れる範囲だ。


 擬態ではなくちゃんと透明になるポーションもあるが、やはり透明な物体がそこにあるような不自然さが残るものが多い

 それに透明になるようなポーションは材料も高く、性能に比例して値段は爆上がりするし、そのわりには擬態系のポーションの方が綺麗に消えたように見えるっていう。

 しかも必要とされる調合スキルも高く、今の俺のスキルだと不安かもしれない。

 シルエットに相談するか?

 えっちな目的のものをシルエットに相談するのは恥ずかしいし、勘のいいシルエットなら用途に気づきかねないな……やっぱ、やめとこ。

 それに今回は調合目的ではなく、あくまでスライムを作ることが目的だから、調合のことは後で考えよう。


 リリーさんに売ってもらった素材も、視覚をごまかす擬態系の素材がほとんどで、透明になるものは少ない。

 これは擬態系透明スライム路線になりそうかなぁ。材料は少ないけれど透明スライムも試してみているので、うっかり上手くいくことを祈ろう。


 しかし幻影効果か……背景に擬態。人の肌に擬態。

 いや、それは確かに人の裸に見えるかもしれないが、スライムが擬態しているだけであって本物ではない。

 服が溶けたシチュエーションに見えてもそれは生肌ではなく、ただのスライムである。


 しかし見た目は、スライムが触れスライムゼリーが付着した箇所から服が消え素肌が見える状態。実質スライムに服を消されている状態。

 偽物ではあるが見た目はえっちぃ。


 むしろ本物ではないだけこちらの方が平和的で健全なのでは?

 いや、やるからにはやはり本物を突き詰めるべきか?


 本物と偽物。

 目に見える結果は同じだとしても中身は違う。

 結果だけを求めるか中身まで求めるか。


 透明ポーションについて調べるつもりだったが、新たな悩みを先に解決しよう。

 これは哲学の分野か?


 ヘイ、アベル。哲学の本持ってない?


 え? いきなりなんで哲学かって?

 思春期の若者にありがちな悩み事ができてしまって、その答え探しに。

 俺に哲学本なんて読めるわけがない?

 相変わらず失礼な奴だな。読んでみないとわからないだろ!?

 初心者向けのでいいよ、とりあえず読むだけ読んでみる。

 ああ、すごく哲学的な悩みなんだ。

 明日パパッと実家から借りてきてくれる?

 悪いね、ありがとう。


 そんなわけでアベルに哲学の本を借りるため、明日はアベルの部屋に押しかけることにした。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る