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その朝は、いつもと変わらない平凡なものに見えた。しかし起き上がって周りを見回すと、ネピルとプナキアがいなかった。ずきんと痛む頭を押さえる。昨日見た、ただの横線がずっと僕に妙な感覚を突きつけていた。

 謎が明らかになっていくような気がしているのに、やはり、解けない。わからない。何をわからないと思っているのかも、よくわからなくなってきた。昨日から体がおかしい。ゆっくりと立ち上がって、ガラクタだらけの世界を見回した。テーブルの前に立つ。思わず呻いていた。頭痛とともに、拍動の音が強くなっていく。

「僕は、一体、何者なんだ・・・」

 言葉は自然に漏れた。そして口にした瞬間、その響きが、音が、今まで何度も自分の心に尋ねたもののように思えた。

 簡単な言い方をすれば、僕はこの問いを『知っていた』。


 急に怖くなって、テーブルに手をつく。目線を下げた。すると、テーブルの上に一輪の花が、昨日生けられていた百合が置いてあった。それはシャイニーさんを思い出させるような白い粒子を纏って煌めいている。僕は、それをじっと見つめた。一瞬だけ、白い光に似た何かが胸の中を這う感触があった。

次の瞬間、僕の中で何かが弾けた。白い光が、思い出を蘇らせ、僕の脳内を走り抜ける。テーブルの上で何度も見てきた百合の花、何度も見上げた、白い粒子の舞う宇宙。僕はそれを、いつも誰かと一緒に見ていた。ふと、ネピルの姿がよぎる。白い髪が、風を受けて後ろへ流れた情景。

 白はいつも、薄暗いこの場所を照らす光だった。

「僕は・・・ここで、みんなと一緒に」

 僕は思いだした。否、『覚えていた』。

 温かいシチューの香りも、指を滑る花弁も、煌びやかな宇宙の星々も、みんなの声も。そして、父さんも。


「ステラ様」

 背後から、プナキアの声がした。僕は、振り返ることができなかった。なだれ込んでくる感覚が、多すぎた。

「お気づきに、なったのですね」

「・・・」

 プナキアは、僕の正面に回りこむ。

「申し訳ありません」

 どうしてプナキアが謝るのか。

「なぜ・・・なぜ謝るの」

 僕らは互いに見つめ合う。ぽっかりと空いていた記憶の中で、プナキアの姿が重なった。

「今から、ここを脱出します」

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