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ネピルはカバンの中をいっぱいにして帰ってきた。 人参、鶏肉、じゃがいも、玉ねぎ、牛乳、白ワインにバター、そして調味料。 派手な音を立ててカバンを地に下ろすと、僕らをちらりと見る。 次に僕の手元を見た。そして不服そうな顔をした。

「僕が食材を調達していた間、君たちは何をしていたの。百合を摘んでおいてくれないとダメじゃないか」

 僕は思わずぽかんと口を開けた。

「ここに、生えてるの?」

 こんな、ゴミばかりの暗い洞窟に?考えもしなかった。

 ネピルがプナキアを叱る。

「君はここに百合が生えてるのを知ってるだろう 」

 プナキアは少しシュンとなった。


 僕とプナキアは百合の花を探すことになった。 その間、ネピルはシチューを作ってくれるらしい。

プナキアのゆっくりした速度に合わせて隣を歩く。本当に、こんなどんよりした暗い場所に花なんてあるのだろうか。

 

 予想通り、百合探しは難航を極めた。

 しかし、途中でプナキアが洞窟の情報を色々と教えてくれたので苦痛ではなかった。

 そして、とうとう見つけた。透明なその花はガラクタがひときわ高く積み上がった頂上に、1本だけで輝いていた。白い光を花弁に浴びていたのだ。


 元の場所まで戻ると、傷だらけの木製のテーブルに白いテーブルクロスが敷かれてあった。その奥でクリームのいい匂いと、ネピルの白い髪が1束にまとめられて揺れるのが見えた。

 3つの椅子を見つけたので、こちらに引き寄せてテーブルの前に並べた。

「おっとっと・・・」

 ネビルは器用に、三つの皿をテーブルに運んできてくれた。 1つは右手、もう1つは左手、そして頭の上に乗せて。

 とろとろしたシチューが目前に現れた。 人参やジャガイモが宝石のようにピカピカ光っている。

 僕とプナキアは小さなテーブルの狭い幅の方で向かい合って座っていて、ネピルは幅の広い方に皿を置いて椅子に腰掛けた。 僕は彼に、百合の花を差し出す。 ネピルはくすんだ花瓶にそれを生けてテーブルのちょうど真ん中に置いた。

「じゃあいただこう 」

「うん、ありがとう 」

 2人共、嬉しそうに見えた。

「君たちも、百合の花をありがとう 」


 シチューは舌の上でとろけ、香ばしいバターの香りがほのかに残った。一口が喉を通るたびに、僕らの無難な話題も花を咲かせた。 プナキアが急にこんなことをしたいといった理由が分かった。百合の花とシチューという相性はなかなかのものだ。

 この景色とみんなで食べるシチューが組み合わさると,胸の中がポカポカしてくるものなのだと、知っていたのだろう。

「プナキア、よかったね! 」

 プナキアは目をにっこりさせて言った。

「はい。 とってもとっても嬉しいです 」

 ネピルはその言葉を聞いた途端、急に立ち上がった。

「気にしないで、食べてて」

 と言ったきりなかなか戻ってこなかった。 声が震えていた。きっとジャガイモを喉に詰まらせたんだろう。そんなにシチューに夢中になっているのかと思うと、僕は可笑しくて笑った。


僕がここに来て五ヶ月ほどたった。 宇宙的にみると今は八月らしい。

 この洞窟に居ると寒さも暑さも感じない。


 昔の自分についてあれこれと思い出そうとしてみた。だけどその努力は一向に報われない。

 彼らとの生活は楽しい。

 仕事は体力を使うけれど、みんなと話をしながらするから楽しいし、早くに終わる。

 たくさん知った。ネピルはシチュー以外にも色々作れること、実はプナキアは歌が歌えること、そして僕には何の特技もないこと。 しかしプナキアは、僕には周りを和ませる素晴らしい笑顔があると言ってくれた。

 みんな本当に優しくて、よくしてもらっている。

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