第3章

29

29

まず目に入ってきたのは、先が見えないほど高く積まれたがらくたの、崖だった。薄暗いので、どこに何があるのかよくわからない。


 どこもかしこもガラクタだらけ。

 辺りを手探りし、立つのに体を支えてくれるようなものを探す。左手の小指に何かが触れ、それに体重をかけて立ち上がろうとした。

 しかし、体を支えていたその何かが、ぐらりと揺れたかと思うと、一気に崩れ落ちてしまう。それと同時に尻もちをつき、空気中に舞った埃を、咳き込みながら払った。ごみを引っ剥がそうと頰を触る。

 濡れている。

 不思議に思い指先を見ると、水滴がきらりと光る。

 その中で粒子が白く艶めいている。ちらちらと光ったり影になったりしているところを見ると、反射光に照らされているらしかった。

 顔を上げてみた。

 頭上の遠い所にぽっかりと穴が空いていて、そこから白い光が、サーッと差し込んでいた。


 再び前を見る。

 高く高く積み上げられたがらくたの先端、崖の上に誰かが座っていた。白くて長い髪が粒子に誘われてなびき、踊っているようで美麗だ。全身が光のもやに包まれていて、近寄りがたいほどの美しさを放っている。

 その人は、どちらかというと少年のように見えた。しかし長い髪、細い身体は、少女のように見えなくもない。白い光が、その人のどこか物憂げな表情と、浅いため息を照らしている。


 急に腰のあたりから無機質な声がした。

「Hello」

 驚いた拍子に思わず声を上げてしまうと、崖の上のその人が、こちらに顔を向けた。気恥ずかしくて顔を背け、先ほど聞こえた無機質な声の主を探す。

「ここです」

 すると、途端に赤い光が、足の方で光った。見下ろす。

 そこには、僕の腰ぐらいの身長しかない、見たことのない機械の体があった。


 黒く、スライドする平たい台のような足が、半球体のボディを支えていて、そのボディの真ん中に丸い目が一つだけある。

「申し遅れました。私はプナキア。ここのショクニンです」

 プナキアは、ギギっと音を鳴らしながら器用にお辞儀をしてみせた。

「ショ、ショクニン…?」

 聞き返すと、後ろから声がした。

「ありがとう、プナキア」

 先ほどまで崖の上で座っていたはずの人が、すぐ後ろに立っていた。2メートルはあるような崖から、もう降りてきたのかと感心した。

 プナキアはぱたぱたと瞬きしながら、足をスライドさせて音もなく去っていった。その姿は、すぐガラクタの奥に隠れて見えなくなった。案外可愛い動きだった。

 間近で見たその人は、人形のような整った顔をしていた。

「僕はネピル」

 少し高めで繊細さのある、少年のような声だ。

「君の名前は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る