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「ユア様!いつもお世話になっている私たちが、お金なんて・・・いただくわけにはいきません」

 驚いて、おじさんと主人を交互に見やった。おじさんはため息をつくと、主人から果物を受け取った。 僕たちは再び歩き始めた。

「おじさん、有名人なの? 」

 手のひらで、もらった果実を転がしながら聞いた。おじさんはただ黙っていた。

 赤い果実に歯を立てた途端、果汁が溢れ出した。油断していた僕の唇から、一筋垂れた。 優しくスッキリした後味で、不思議なことに、齧る度に体がポカポカした。

 感動して、僕は思わずおじさんに尋ねていた。

「これから僕、もっともっといろんなことを体験したり、いろんなところに行ったりできるのかな?」

 おじさんは後ろから答えてくれた。

「できるだろうよ 」

 港にはまだ着かない。しばらく歩いていると、僕をジロジロと見ている人に気づいた。なんとなく気まずくてうつむいても、まだ多くの視線を感じた。

「ねえ、まだ着かないの?もうだいぶ歩いたと思うけど 」

「ん?ああ、もう少しな 」

 おじさんはわざとらしい笑みを見せた。 その足取りはやはりおぼつかない。

 その時、すれ違った人が、連れの人にぼそぼそ話すのが聞こえた。

「あの子、人間の気配がする。どうしてこんな所に居るのかしら? 」

「ユア様が人間の子供と一緒に居るなんて。 どういう風の吹き回しかしら」

 ローブで顔は見えなかったものの、声はとげとげしかった。 妙に思い、周りを見回してみた。 よく見ると、ローブの中で2つの目が光っている。 ただ、人によってはその目が1つの時も4つの時もある。 ゾクッとした。

「ねえおじさん」

 急に洞窟に帰りたくなって振り返った。しかし、おじさんはいなかった。なんといなくなっていたのだ。

僕はまた一人になった。

 不安になって辺りを見回した。何十人といる人達の、フードの裏はずっと見えない。

「あ?なんだ、人間の匂いがするな 」

 その時、後ろから僕をつついてきた者がいた。おじさんよりしゃがれた、低い声だった。

「おい、こっち向けよ」

 ざわざわする胸を押さえて、振り返った。そして、見上げた。それは、僕の全身が影に包まれるほど大きかった。

「ははっ、人間のガキじゃねえか!」

 小さくて丸い、紫色の目がギラギラ光りながら僕を見下ろしていた。

「お、お前は誰だ?」

「ああ?人間に名乗るような名前はねえよ」

 そのロボットは関節を何度も鳴らし、すごんだ。

 「俺らの街に入ってきやがったこと、後悔させてやるよ」

 僕は駆け出した。ぼうっと光る街灯も空の闇も、風と共に追い越して行く。ロボットは僕を追いかけ続ける。その数は徐々に増え始めた。 僕は息を切らしながら、角を曲がった。

 しかし、そこは行き止まりだった。 絶望した僕をロボットたちがさらに追い詰める。とうとう僕の背はビルの壁についた。

「ヘヘヘ・・・おとなしく観念しろぉ」

 ロボット達は僕を追い詰めたことがよほど嬉しいらしい。

「僕を・・・どうするっていうんだよ」

「・・・あいつみたいにしてやるのさ!」

 ロボットがじりじりと距離を詰めてくる。護身用のカプセルを、リュックから取り出した。怖くて目の前が真っ白になってきた。ロボットの腕が僕の肩をつかんだ。引きちぎれるような痛みに呻き声が漏れた。

 死ぬ。

  奴は、僕の首を締めあげてきた。体の上にやつらの手が群がってくる。薄くなっていく意識の中蘇ってきたのは、 プナキアの姿、そして父さんの声だった。父さんは僕が外に行くのを禁じた。今ならその理由がわかる。世界からすれば、今の僕はあまりに無力だった。

「父さ・・・ごめ・・・」

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