闇落ちオカメンジャー

「みんな、意味ないオカメじゃないよ! オカメンジャーの時点で悪い意味はみんなあるよ!」


 確かそんなセリフがきっかけだったように思う。


 言葉ってのは怖いよな。

 深い意味なんて、なかったはずなのに、まさかこんなことになっちゃうなんて…、

 俺は、某SNSで呟いた一言を見直してみる。


『オカメンジャれる【オカメ語】

意味: 1.オカメンジャー化が進むこと。この言葉が出た時点で末期のことが多い。

(例) レッドがまたオカメンジャれたらしいよ? うそだ、もうあいつはいくとこまで行ってるから進まんだろ

  2.オカメンがみんなでじゃれていること。ベルジャック。いつもの迷惑行為』


 オカメンジャー化が進んだ俺たちは、どこまでも堕ちていく…、



「どんよりとした空気。死んだ目のオカメンたち。食欲もなく、ただ虚ろに遠くを見ているだけの朝…、」

 暗い顔でそう呟いているのはブラックだ。そしてその周りには、闇落ちしたブラウンとネリーロ。


「この地を去り、海の藻屑と消えて行ったブルー。どこかで下ネタを呟いているであろうイエロー。帰ってしまったゴールド…、」

「ブラック?」

 俺は恐る恐る声を掛けた。

 だがブラックはどこも見ていない。


「レッドは、この危機的状況を救えるのが自分だけだと…わかっているのか…」

 苦しそうに顔を歪め、そのまま床に倒れる。


 確かに、このままではいけないのかもしれない。だけどっ、

「……ネリ、もうダメなんだ」

 ネリーロがぽつり、と漏らす。


「オカメンジャーになってさ、楽しかったし、嬉しいこともいっぱいあったはずなのに……。どうしてこんなことに」

 目に、うっすらと涙を浮かべる。


「……私も…さ、オカメンジャれるっていうことがどういうことか、忘れてたんだ…」

 ぼんやりと、遠くを見つめるブラウン。

「レッドが、悪い意味はみんなある、って言ってたの、あれ…」

 ゆっくりと首だけをレッドの方に向ける。しかし視線は、合わない。

「オカメンジャり過ぎたのかな、私達…、」


 こんな状況下でありながらも、


『オカメンジャるって変な言葉。オカメンジャこっぽい。は? オカメンジャこってなんだよ? ちりめんじゃこの仲間? それとも新しくできた湖か? オカメンジャ湖。ぷぷ、ウケる~!』


 などと考えてしまうのは、非常なオカメだからなんだろうか。などと脳内で葛藤するレッド。


「オカメンジャり過ぎた……。それが俺たちの、堕ちた原因」

 はぁ、と大きく息を吐き出し天を仰ぐ。


「最初に言い出したの、誰でしたっけ?」

 グダグダの三人に向けて、訊ねる。

 三人が揃ってレッドを指した。


「は? 俺っ?」

 濡れ衣だ、とばかり、声を荒げるレッド。


「意味ないオカメはただのオカメ。みんなそれを聞いて、立ち上がった…、」

 ブラウンがふらり、と立ち上がる。


「意味のあるオカメってなんだろ? って話が上がって、それでみんなが、」

 ブラックが立ち上がる。


「オカメンジャーに変身したネリ。久しぶりだったネリ…、」

 ネリーロも立ち上がる。


「それで、戦いごっこやった結果、部屋がめちゃくちゃになってる、と。空調設備壊したのは誰です?」

 レッドは腕を組んで三人を順番に見遣った。


「知らない」

「誰かなぁ?」

「ネリじゃない」

 三人が同時に言った。


 梅雨明け宣言からしばらく経つが、雨が降る様子はない。雨を予感させる湿気だけはたんまりあるのに、雨は降らないのだ。そして昨日からは、真夏のような陽射しまで出てきた。何が言いたいかというと…、


「室内気温、34℃ですね」


 暑い。


「ゴールドに直してもらおうと思ったら、ゴールド帰っちゃっててしばらく戻らないし」

 ブラウンが呟く。

「ブルーは今頃、船の上だし」

 海の男と化したブルーを思い、ブラック。

「ネリは子供だもんっ」

 てへ、と笑うネリーロ。


「で、俺が選ばれた、と」

 レッドが汗だくになりながら、確認する。三人が力いっぱい頷いた。


「……まったく、なんで俺が、」


 災難だ。

 災難でしかない。

 オカメンジャってるやつらになんでこんなことをっ。


 脳内では不満たらたらだ。

 しかし、基地の空調設備は全室共通案件。この暑さは、何とかしなければいけないのも事実。


「くそっ」

 レッドは財布を出す。


 三人がハイタッチを始める。


「じゃ、修理やさん、よろしくお願いしまぁぁす!」

 ブラウンが外で待機している業者に声を掛けた。


「もらったボーナス、ほぼ消えるのかよっ」

 レッドの涙は、夏の太陽に焦がされ一瞬で乾いていくのであった。

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