二回戦:チャージエンショット③


 この『チャージエンショット』、第一セット目で行う行動はひとつしかない。

 ショットは撃てず、第一セットでショットを撃てるプレイヤーはいないのでガードをする意味もない。

 当然ぼくは『チャージ』を選択した。


「全員の選択が終了致しました。それでは天月様から順に開示します」

 このゲームの進行は天月さんではなく、お付きの女性だ。その声に従い、各々の手が公開される。


 全員、チャージ。


「まあ、ここまでは当たり前やな」

 あさひさんが呟く。席と席の間は数メートル離れているので、コソコソと作戦会議をするのは難しそうだった。

 ぼくのタッチパネルの右上に、青い光がひとつ灯る。それと同時に、全員の前面のディスプレイにも青い光がひとつずつ灯った。

 いまのチャージ量だろう。

「脱落者はいません。それでは第二セットに移ります。自身の手を選択して下さい」

 その声に従い、ぼくは三つのコマンドが書かれているタッチパネルに目をやった。


 最短で、あと二セット。あと二回コマンドの選択を読み違えると終わる可能性がある。

 敵は天月さんと羽村さん、二人いるのだ。

「さて、どうしようか……」

 

 ぼくが思うに、このゲームでいちばん重要なことはチャージリソースの管理だ。相手よりもチャージ量が多ければ多いほど有利になる。

 例えばぼくが十チャージ、天月さんが一チャージしかなかったら、明らかにぼくのほうが有利だろう。

 つまりこのゲームの基本は、、だ。


 また、このゲームはライフがふたつある。

 これをどう捉えるかだけれど、ぼくは『一回は死んでいい』と考える。

 一回は死んでいいのだ。

「…………」

 だからここは、チャージか、もしくは敵である天月さんも同じことを考えていると踏んで、天月さんへショット。


 うーん。でもなんとなく、あさひさんあたりが天月さんを撃つ気がするんだよね。

 自己紹介ゲームのときもそんな感じだったし。

 あさひさんが天月さんを撃ったところにぼくまで被せてしまうと、その攻撃はとなってしまう。

 それは……勿体ないか。


 ここは、チャージだ。

 ぼくは無表情で『チャージ』を押した。


「全員の選択が終了致しました。それでは次は、三上様から順に開示します」


 進行の女性が告げる。


 公開されたあさひさんの手は、『チャージ』だった。


 彼女も安牌をとったようだ。

「迷ったけどな。今ショットすれば天月を殺せるんちゃうかって。でも、アイツはうちの自己紹介ゲームを見とる。うちが、ここで迷わず殺しに行くやつやってようわかっとる。せやからアイツは十中八九『ガード』しとるやろ。それ読みでチャージやな」

 あさひさんはそう言い、「なぁ、天月」と挑発の笑みを浮かべた。天月さんはそれを朗らかな笑みで受け流す。


「久野様、『チャージ』」

 ぼくの手が公開されて、タッチパネル上に二個目の青い光が灯る。


 しかし、次の瞬間、予想だにしていなかったことが起こった。


「羽村様、『ショット』。対象は――――三上あさひ様。他に三上様を攻撃したプレイヤーはいないので、ショット成功です!」


「……………………あ? なんやと?」


「三上あさひ様、ライフをひとつ失いました。残りひとつとなります」

 あさひさんのディスプレイに、大きくバツ印がついた。

「は? おい、なんやねん!」

 机をばん、と叩く。

 羽村さんは怯えた表情をして天月さんの方を見た。

「羽村さん、指示通りに動いてくださって、ありがとうございます」

「あ? 指示って、んなもん出してなかったやろうが!」

「指示なら出しましたよ。

「………………チッ」


 ゲームが始まる前から、あさひさんの思考が読まれていた。

 その情報はあさひさんの表情を暗く沈め、ぼくとさっちゃんも苦い顔になった。


 続くさっちゃんは手堅く『ガード』選択。

 そしてあさひさんを読み切った天月さんは『チャージ』を選択していた。

 第二セットが終わり、あさひさんが残り一ライフ。

 早くも脱落にリーチが掛かった。


「脱落者はいません。それでは第三セットに移ります。自身の手を選択して下さい」

 落ち込む間も、休憩する間もなく、次のセットが始まる。

 ふー、とぼくは大きく息を吐いて、次の手を選んだ。

 シンプルに考えよう。まず読みやすいのはあさひさん。あさひさんはいま二つチャージを持っているので、『ガード』が安定行動だ。

 次に羽村さん。羽村さんは今チャージがない。

 何も賭けていない彼女は二回死んでも問題ないため、ここは当然『チャージ』だろう。


 さっちゃんはそれを読んで羽村さんを攻撃……することを読んだ天月さんがさっちゃんを攻撃……することを読んでさっちゃんがガード。うう ん、ここの二人は考えてもきりがないな。


 ぼくは自分の手を選び、顔を伏せた。


「全員の選択が終了致しました。それでは久野鈴也様から順に開示します」


 ぼくが選んだ手は――――ショット。

 対象は、羽村さん!

 あさひさんが意外そうに「ほぉん」と言った。


「それでは羽村様の手を公開します」


 羽村さんの手は――――『チャージ』

 つまり!


「確認したところ、他に羽村様へショットを撃っている方がおりませんので、久野鈴也様のショット成功です」

「っしゃ!」

 ぼくは年甲斐もなく叫んだ。

 これで羽村さんは残り一機。


 ぼくが喜んでいると、天月さんが「ふふ」と肩を震わせた。

「何がおかしいんですか?」

「ふふ……いえ、すいません。ただ、自分の作戦がハマった瞬間というのはやはり、最高に気持ちがいいなって」

「自分の……作戦?」

「ええ。久野さん。。今も、自分は三上さんや大塚さんよりも軽んじられているだろう、と心のどこかで思っていませんか?」

 ぼくは、一体何を言われているのかわからなかった。そりゃあ、ぼくよりもさっちゃんやあさひさんを警戒するのは当然だろう。

 そう思っていると、天月さんが驚くことを言った。

「あなたはもう、だということです」

 そう言いながら天月さんは、自分の手を公開した。


 ショット。

 対象は――――久野鈴也。


「なんっ…………!」

「あなたならここで必ず羽村さんを撃つと思った。信頼ですよ、これは」


 ぼくの顔から血の気が引いた。

 ここで、ぼくを撃つのか――。

 さっきはライフひとつくらい捨てていいと言ったが、実際に失うと、そんなはずがないことがわかる。

 

 もう、ぼくは、このゲームで満足に動けなくなった。


「大丈夫!」

 不意に、さっちゃんの声が空気を切り裂いた。

 絶望に打ちひしがれていたぼくの耳に、彼女の声が届く。

 ゆっくりとさっちゃんの方を見ると、そのディスプレイには信じられないものが映っていた。


 大塚沙鳥、ショット。

 対象は――――ぼく。


「大塚様から久野様へ攻撃。天月様、大塚様両名の攻撃は無効となり、久野鈴也様はライフが減りません」


「すずくん、大丈夫。大丈夫だよ。わたしが守るから」

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