第3話

君江さんは障子を開けて我々を中へ入るように促してくる。

和室の中に入ると女性が2人、入口と反対側に座っていた。金髪ギャルと清楚系女子という似ても似つかない2人が知り合いなのかと思うとこの世界も結構変人の集まりなのだと思わざるを得ない。


「矢部はどっち狙いだ?勿論、あの清楚な子は俺に譲ってくれるよな?」

有無を言わさぬ鋭い眼光で此方をキッと睨みつける。

これが谷崎のやり方だ。

自らのフィールドに連れ込んでしまえばこちらのものと言わんばかりに獰猛な獣に成り代わる。

そこに昼間の謙虚さなど微塵も無かった。

所詮、俺は谷崎を引き立たせるだけの存在。

まぁ初めから分かりきっていたのだが。


先に着くと軽く挨拶をを済ませて席に着く。

勿論、谷崎はお目当ての清楚系女子の目の前に陣取っていた。

「矢部、適当に料理頼んどいて〜。」

覇気のない声で俺に対して頼んだかと思えば、お目当ての子には猫撫で声で話しかける。

「ねぇ、自己紹介しよっか。僕は谷崎みつる。保険会社に勤めているしがないサラリーマンです。よろしく。」

そしてまるで人気アイドルにでもなったかのようにイケメンスマイルで最後の仕上げを施す。黄ばんだ歯がどうも不釣り合いだが谷崎自身は至って真剣だった。

昼間の気色悪い笑みが突如フラッシュバックしてきて思わず笑みが溢れる。

ここまで来ると、呆れを通り越して尊敬し始めている俺がいた。


「人ってここまで変われるのか…。」

溜息と共に漏れ出た俺の声など谷崎の耳に届く筈もない。当の本人は鼻の下を伸ばしながらたった今届いた生ビールを豪快に呑んでいた。


「えと、ウチは雛乃満里奈。アパレル店員やってまーす。で、こっちが」

金髪ギャルこと満里奈さんに紹介され、谷崎の本命ちゃんは静々と名前をいうと思っていた。

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