林檎の容姿にレモンな彼女

柳葉 ひなた

第1話

俺を見て皆、口々にこう言う。

『矢部って変わった奴だよな』


どうやら俺は相当な変わり者らしい。マジョリティーよりマイノリティーを好む俺は一般的には変な奴だった。

しかし、俺は自らをそのように思った事は一度もない。理由は明白。社会的に疎外されている訳でもなければ孤立感を感じる事もないからだ。友人だって数人ではあるがちゃんと居る。

とは言え、変な奴と言われる事に対して何も思わないどころか、寧ろ嬉々として誇りに思う時点で俺のこの自論は唯の白紙の企画書と同じなのだろう。


「おい矢部、明日の夜合コン付き合えよ。どうせ暇だろ?」

咥えていた煙草を灰皿に押し付けながら俺の肩に腕を乗せてきた谷崎はかったるそうに呟いた。煙草独特の焦げた匂いが鼻を突くと思わず一歩後退る。

すると、谷崎はニコチンで黄ばんだ歯を全面に押し出しながらわざとらしくニヤリと笑った。

「ったく、煙草臭いからくっつくなって言ってるだろ?」

眉頭の皺は一層深く刻み込まれる。大体、煙草なんて吸っていて良いのか?勤務中だぞ。

こりゃ上司にバレたらタダじゃ済まないだろうな。

「なぁ、良いだろ?”矢部くん”。」

谷崎は私の方に向かって手を揃え、ブツブツ念仏でも呟くかのようにしつこく誘ってくる。

『矢部くん』と呼ぶのは俺に頼み事をする時に使う彼の常套句だ。心の底では自分よりも仕事が出来ない俺を見下しつつもこういう時だけ謙る。まさに、交渉の魔術師とでも言うべきか。こんな感じで要領よく契約に漕ぎ着ける谷崎が羨ましい。


「分かった。行けばいいんだろ?」

俺が誘いを受けると分かると谷崎の顔から笑顔が消えた。先程までの気色悪い笑みが嘘のように一転、感情が読めなくなった。その顔の裏に隠された心は一体何なのか。俺には谷崎の真意が時々分からなくなる。

真顔のまま『じゃあな』とだけ残して颯爽とデスクに戻っていく後ろ姿を唯呆然と見ているしか無かった。

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