第2話 刻《とき》持ち

「さっ、私たちの時間だ。カスミ、行くよ」

「OKです!」


 クロとカスミは川に向かった。川原には血が付いた部分が紐で囲まれており、女性が倒れていたのが分かるようになっている。亡くなった女性は少し離れた場所でシーツが掛けられており、地元の警察官が第一発見の夫婦に状況を聴いているところだった。


「大変なことが起こりましたね。」

「こんな村で、事件なんて・・」

クロが周囲に集まっていた人に声をかけると

男性の一人が下を向きながら応えてくれた。


クロは亡くなった女性にかけられたシーツのほうを眺めていると、草陰にカバンがあることに気が付いた。カバンを拾いにいき、中を見ると羊羹と書かれているオレンジ色の包装紙が束ねてあった。


「そこの丁稚羊羹屋さんのものかな?」

クロが声に出すと、

「丁稚羊羹屋さんのは緑色の包装紙だったと思いますが・・・?このオレンジ色は隣町にある高級和菓子屋さんで使われる色に似ていますね。」

と聴き取りが一段落ついた女性が近づきながら話しかけてきた。どこの包装紙か気になるようであった。


「あっ、住所があった!」

クロはカバンの中を見て、住所、宛名が書いている紙を発見した。

「丁稚羊羹屋さんの店名と住所が書いてあったんですか?」

先ほどの男性が近づいてきた。その様子をみて、クロが言葉を発した。


「ちょっと待って!」


とクロが言うと周囲は注目した。クロはカバンをもって警察官に近づき、

「カバンに住所が入っていたんです。」

と告げた。


「持ち主がわかったんですか」

警察官は、それはよかったと安堵の表情で話しかけてきたが、クロは男性に視線を向けている。


「・・・」

男性は黙っている。


「このカバンの持ち主を知っていますね? 拾ったカバンに住所が書いているって言うと、持ち主の住所と思う気がして・・・。この包装紙が丁稚羊羹屋さんと関係していて、なにかを知っているように思いましたが?」クロは男性に詰め寄った。


「丁稚羊羹屋さんに昨日行ったため、思い込んでいただけで…」

男性は答えたが


「丁稚羊羹屋さん、今日から開店みたいですよ」

クロが問いただす。


「明日になると犯人は時間がかなり短くなっているから、すぐにわかるです。明日まで待ってみるです?」

カスミが一言加えたところで男性は白状した。

 

話を聴くと、男性は包装紙を取扱う仕事をしており、貴重な紙を手に入れたため隣町の高級和菓子店に包装紙として売り込もうと考えていたが、つき合っている彼女が手ごろな価格の丁稚羊羹屋さんに使ってもらおうとお店に連絡をとっていることを知り、言い争いになっていたとのこと。


その彼女が包装紙を持って出かけたため、追いかけて捕まえたところ転んで石で頭を打ち死んでしまった。開店に間に合わせようとしたのかもしれない。包装紙が入ったカバンを彼女がどこかに隠してしまい、見つからなかったため探していたとのことであった。


とき持ちになりたかった。高級和菓子に価値をつけて感謝してもらうことで時間を増やして、もっと彼女と一緒にいる時間を長くしたかった。」

男性はうなだれた。



とき持ちになるのは難しい。


ときは貯められず、得た時間を自分のために使う快感もあり、増やし続けるのは意外と難しい。現に事件が解決してホテルに帰ってからというもの、カスミは動画を見る時間として昨日獲得した時間を有効に費やしてしまっている。とき持ちになりたい。この回答は本当に難しい・・・

 

「さっ、おやつの時間だ。カスミを呼ぼう」


そう言って、箸とスマホを取り出した。


 カスミとクロは冷たい丁稚羊羹を食べている。

「この丁稚羊羹、おいしいです。甘さ控えめで!」

丁寧に作ってくれたお店の方、ゆっくり食べられる場所、時間があること、おいしいと伝えることができること、多くのことに感謝しながらクロとカスミは食べている。


そう、ここはゆらぎの国・・・

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