第21話 これって、そういう事なのか?

「やっと帰れるようになったけど……」


 中村優斗なかむら/ゆうとはトボトボと通学路を歩いていた。


 先ほど帰路に就く前に校舎内を探し回ったのだが、やはり、結城芽瑠ゆうき/めるの姿はなかったのだ。

 何かしらの用事があると言っていたが、それは本当らしい。


 今後、芽瑠とどういう風に向き合えばいいのだろうか。


 この悩みから解放されるのは、もっと後になるかもしれない。


 今日は本当に大変なことが多かった。


 部室内で色々なことが生じ、胸の内が引き裂かれそうだったからだ。

 早く帰られたのはいいが、悩みは尽きそうもなかった。


 時間があるという事は、あのアルバムと向き合う時間を多く確保できたという事。

 部活をしていると、平日は殆ど時間がないのだ。

 時間を無駄にしたくないと思い、優斗は軽く走り始める。


 できるだけ早めに自宅に到着し、あの写真を見ようと思う。

 複雑に考えるのは、後にしようと思った。






 走ったことで、比較的早めに自宅に到着する。


 夕方、五時半前の到着。


 優斗は玄関の扉を開け、入る。


 そういや、なぜ、あのタイミングで芽瑠が部室にやってきたのだろうか。


 玄関に踏み入ったところで、その不自然さに気づく。


 まさかとは思うが、南奈がそれに関わっているのか?


 嫌な予感ばかりが脳裏をよぎる。


 ここまで都合よく事が進んでいくことなんて普通はない。

 どう考えてもおかしいし、気になることばかりだ。


 けど、芽瑠のことを南奈が呼び出したという保証はない。


 自分の思い込みかもしれないし、何もわからない状況で南奈に言ったら単なる言いがかりになってしまう。


 偶然なのか、仕組まれたことなのか判断に迷うが、優斗は一旦玄関先で靴を脱ぎ、家に上がる。


 今からやることは、アルバムを確認すること。

 特に二つ目のアルバムが重要になってくることから、それを確かめることが先になるだろう。


 一先ず階段を上って、二階の自室へと急ぐのだった。






 優斗は自室に入るなり、自身の両手を確認する。


 ほんのりと手の平に残っている感触があった。

 それはおっぱいである。


 夏理南奈なつり/ななのは小さかったのだが、それなりの感触が手に残っているのだ。

 小さくともそれなりに大きい。


「……い、今はそんなことじゃなくて」


 今、考えるべき事は、おっぱいとかじゃない。


 そんなことばかりだと、南奈の思う壺だ。


 優斗は気にすることなく無心になり、深呼吸をする。

 平常心を取り戻そうとした。


 南奈は何を考えているのかわからない。

 過去のことについても、焦らしてくるのだから。


 もしや、過去の約束とは、二番目のアルバムにあるのか?

 それとも、アルバムの写真の中に、その情報が紛れ込んでいるのだろうか?


 優斗は自室の床にバッグを置き、咄嗟に椅子に向かい、腰かけた。


 机に置いてある昨日のアルバムを見開き、最初から確認する。


「……」


 写真は昨日と変わることなく、田舎の風景をバッグに、自分らが写っている。


「んん……」


 もしかしたら、じっくりと見ていたら、この写真の中に情報があるかもしれない。


 優斗はひたすら目を凝らし、ページをめくり、確認を続けるのだった。




「でも、何もないような……」


 じっくりと見ても何も疑問に感じることはない。

 ただ、懐かしいという感情が蘇ってくる。

 次第に、この田舎で何をしていたのか、アルバムの写真を見て、ゆっくりとだが、思い出せているような気がした。


「何もないなら、こっちの方か?」


 二番目のアルバムに、何かの答えが?


 直観的にそう思い、机に置かれた別のアルバムへと手を伸ばす。


 手にするなり、ページをめくり始める。


 意外なことに先ほどと同じく撮る場所が変わった程度。


「これって、写真の枚数が多かったから分割されていただけか?」


 それでも見続ける。

 しかし、大体、同じだ。

 二冊あったのは、単なる写真の枚数が多かっただけだと思うと、消失感に襲われる。


 こうなるんだったら、昨日の段階で眠かったとしても、最初っから二冊目とも確認しておけばよかった。


「ん?」


 答えに繋がるところがなくとも、ページを無心でめくり続けていると様子が変わってくる。


 最初は三人で写っている写真が多かったのに、二人だけの写真を多く見かけるようになったのだ。


 優斗と芽瑠。

 または、優斗と南奈。

 そのどちらかだけだった。






「仲が悪かったとかかな?」


 ページをめくり、写真を見、そう感じるようになった。


 高校生になった今、彼女らで直接会話することなく生活を送っているのは、そういう意味合いもあるのだろうか。


 彼女らが積極的に接点を持たない理由は、それが関係しているかもしれない。


 何度もページをめくり続けていると、少しずつ写真に写っている彼女らの表情が変わってきていることに気づく。


 しかし、仲が悪くなるようなことが数日間のイベントであったのだろうか?


 短期間で関係が崩れるとか、あまり考えられない。

 元から悪かったのか。

 本当に、数日間の田舎での生活で互いを嫌いになるきっかけが?


 でも、夢の中では、普通に仲が良かったように思える。

 夢は単なる空想であり、自分の中で本能的に嫌な思い出が上書きされ、それを寝ている時に見ていたのかもしれない。


 まだわからないことが多々あるが、ページをめくる。


 そして、途中らへんから写真がなくなっていた。


 それ以降の写真としての記録が本当にないのだ。

 この先、写真を撮れなくなるような出来事があったに違いない。


 優斗は、過去を数日前まで忘れていた。

 そんな自分が、わからないことを思い出そうと思っても難しそうである。


「そういや、あれは……」


 ふと気になることがあった。

 それは、あの屋敷の事だ。


 アルバムを見ても、あの屋敷のことに関する情報だけはわからなかった。

 写真が途中からないことから、このアルバムからすべてを知ることは難しいだろう。





「大体のことはわかったけど……」


 何となく最後のページまでめくっていくと、写真すらないページの間に挟まっている、とある一枚の手紙を見つけた。


「これは?」


 気になり、四つに折られた手紙を見開くと、その紙には幼い字で何かが書かれていたのだ。


 内容は至って簡単。

 大人になったら、もう一度会ってほしいというもの。

 その時は、優斗の方から、選ぶという約束になっていたのだ。


 南奈が言っていた約束というのは、このことなのか?




 この場合、二人は昔から何かしらの形で、優斗に好意を抱いていたという事になる。


 だから、写真でも途中から彼女らの様子がおかしいところばかりが写されていたのだろう。


 昔の写真を見ての通り、関係性が悪かったのは、そういった事情が関係しているのだと、優斗は自分の中で納得する。


 屋敷の件はまだ不明だが、この手紙で約束の件はわかった。だから、明日、南奈にもう一度聞いてみようと思う。


 芽瑠とはまだ心を通わせられるほどの勇気はない。


 だから、一つずつ解消していこうと試みるのだった。

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