第3話 今まで気にしていなかったけど…このおっぱいって

 中村優斗なかむら/ゆうとの気分はいつも以上に高ぶっていた。

 この感情がそうそう落ち着くことはないだろう。


 結城芽瑠ゆうき/めると放課後の約束を交わした日の昼休みの終わり頃。


 優斗と彼女は別々のクラスの為、午後の授業場所が必然的に違う。

 故に、優斗は彼女から離れ、一人で校舎内を歩いている。

 他人からの視線が気になるものの、あまり気にしないように心がけていた。


 どこに連れて行けばいいだろうか?


 先ほどの話でも上がったことなのだが、どこが最適スポットかわからないのだ。


 優斗は女の子とデートをしたことがない。

 だから、ここ周辺での人気スポットすら把握していないのだ。


 優斗は妄想で女の子と付き合うことばかりで、そこらへんが疎かになっていた。


 女の子と付き合って、色々なことをできればいいと日々考えていたわけだが。

 今日の放課後。芽瑠にとって魅力的な場所に連れて行けるかで、今後の人生が大きく変化するだろう。


 自分に彼女をリードできるほどのスペックがあればいいのだが。

 今まで一度たりとも恋人ができないことを鑑みると。そういったスキルとかは生まれながらにして備わっていないのだろう。

 むしろ、そのスキルがあったら、最初っからできていたはずだからだ。


 やはり、恋愛について相談にのってくれる人は確実に必要なのだろう。


 でも、どんな人に話しかければいいのだろうか?


「同姓に相談するのは……さすがに、それは悪手か」


 しかし、早いところ、相談相手となる人物が欲しかった。

 何か成功を収める人には、必ずと言ってもいいほど優秀なサポーターがいるものだ。


「んん……」


 優斗が唸って廊下を歩いていると、ふと、校舎の曲がり角で、とある子とぶつかりそうになる。


「ちょっと、どこ見て歩いてるのよ」

「す、すいません……」


 覇気のある相手の口調に圧倒され、優斗は咄嗟に頭を下げる。




 でも、この声、どこかで聞いたことがあるような。


 ふとしたことで、懐かしい想いが内面から湧き上がってくるようだ。


 顔を上げてみると、そこには大きな段ボールを持った生徒会役員の子が佇んでいた。

 ムスッとした表情を見せているのだが、その彼女はすぐに平常時の表情へ戻るのだ。


「優斗? よくよく見たら、あなたじゃない」

「詩織こそ、どうしてこんなところに?」

「役員としての仕事よ。生徒会室の片づけをやってるところなの」

「そうなんだ。なんか大変そうだな」


 彼女は、昔から交流のある幼馴染である。


 シュシュで髪を結んだ黒髪ポニーテイルが特徴的な山村詩織やまむら/しおり


 小学生の頃から同じ部活をしたりしていた。

 元から両親同士の仲が良かったこともあり、家族みたいな間柄なのだ。


 しかし、中学二年生からは互いに忙しくなり、距離を取るようになっていた。

 決して仲が悪くなったとか、そういうわけじゃない。

 それぞれの環境が大きく変化したというのも一つの要因だろう。


 そもそも、詩織は生徒会役員の一員で、副会長なのだ。

 元から文武両道で、何をやらせても出来るタイプの子である。


 優斗とは住む環境が違う存在だ。

 でも、昔は剣道という同じ趣味があったことで、より一層に距離が近かった。


 中学生の頃、優斗が剣道に挫折し、辞めてしまった過去があり。それも距離を遠く感じている理由なのだろう。


 でもな、頭がいいのに、どうして、この学園に入学したんだろ。


 この学園の水準は決して低いわけではない。

 が、彼女の成績を鑑みれば、もっと上の学園を目指せたということなのだ。


「というか、ここで会ったし、これでももって手伝って」

「う、うん。わかった」


 優斗は彼女の問いかけに頷いて、見た目よりも重い段ボールを両手で持ち、廊下を移動することになった。






「ねえ、この頃、調子はどうなの?」

「この頃?」

「そうだよ」


 昼休みの終わり頃。

 役員としての荷物移動を終え。

 今、中庭の端っこらへんのベンチに腰掛け、優斗は詩織と隣同士で会話をしていた。


「いや、まあ普通かも」

「普通って。噂だと付き合ったんでしょ?」

「え? ……なんでそれを知ってるの?」

「それはすぐに広がるからね。さすがに結城さんの事だからね」


 芽瑠は爆乳であり、その大きさから男子生徒からの人気が非常に高い。

 知名度が高い故、噂はすぐに広がるのが普通なのだが、それにしても、拡散力が凄まじいと思う。


「それで、どうなの?」

「それは」


 この流れ、話せば相談にのってくれるのか?


 やはり、相談するなら、昔から馴染みのある女の子の方がいいかもしれない。

 だよな。

 うん。


 優斗は決心を固め、隣の彼女の方を見やる。

 が、刹那、ドキッとしてしまう。


 今までそう感じたことがなかったのだが、昔と比べ、デカくなっている。

 それは言わなくてもわかるかもしれないが、詩織のおっぱいが大きいということ。


 友達のような間柄で、身体的には気にしていなかった。が、改めて見ると、そこら辺の子寄りも大きいということに気づかされるのだ。


 この学園で確実に一番、でかいのは、あの子であろう。

 けど、二番目は多分、幼馴染の詩織である可能性が高い。


 実のところ、親しい間柄でも、直接バストの大きさについて聞いたことはなかった。


 これって聞いてもいいことなのか?


 優斗が硬直していると。


「どうしたの?」

「え? い、いや、なんでもないよ」

「なんでもって? なんか、隠してるでしょ?」


 詩織から強引に迫られることになった。


「そ、それよりさ。今日、芽瑠さんと付き合うことになるんだけどさ。どこに連れて行けばいいかな?」

「そうやって話を逸らすし……」


 彼女は少しムスッとした表情を見せる。


「いや、あともう少しで昼休み終わるしさ。だから、ちょっと、そういうこと聞きたくて」

「……まあ、どこだろうね」


 詩織からジト目を向けられるが、彼女は少し考えた後、パフェ関係の店屋の方がいいんじゃないかなと口にしていた。


 確かに、その方が女の子受けよさそうだと思う。


 優斗は、あともう少しで授業が始まるからと、簡単に言い訳交じりのセリフを吐く。そして、ベンチから立ち上がると、その場所から足早に立ち去るのだった。

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