第28話 挑戦

ダビデ、ゴリアテを撃破


「ジョナサン、これをどう思うね?」

父ソール・レッドシールド男爵は未だに紙媒体のチェックを怠っていなかった。彼がこちらに差し出したメディアには、G7を巨人ゴリアテ、デイヴィッドをダビデになぞらえた見出しが大きく躍っていた。慌てて父から紙面をひったくり、僕は記事を読み進めた。


デイヴィッド・ライフィールド氏、G7諸国の許可と支援を不要と一蹴

「邪魔をするな」とデイヴィッド氏(フランス大統領弁)


「宇宙エレベータについてとやかく言う資格が彼らにはない」

「長年の疑問が解けた。国家元首の多くは進歩を好まない人種なのだ」

「彼らには地球を任せられない」

「G7は、本来の目的である経済の問題についてだけ話していれば良い」ときっぱり

各国首脳陣は誰一人反論できず

G7は宇宙エレベータの環境と国家主権への影響を不問に

見返りに会議参加国推薦人を乗務員として優先受け入れ?

その他にも何らかの裏取引を匂わす首脳も…

世界を牛耳るつもりかとの記者の質問に微笑みを残して会場を去るデイヴィッド氏


いくつかの写真と共に過激な文言が並んでいる。

「デイヴィッド・ライフィールド氏は世界を牛耳ろうとしているのか?」

記事の最後は疑問符で締め括られていた。


「ジョナサン、彼は世界の王になろうとしているのかな。だとしたら、これは私が懸念した通りの忌々しき事態ではないかね?」

父の詰問に僕は苦虫を嚙み潰した気分になった。

「まさか、デイヴィッドはあくまでもビジネスとして宇宙エレベータを成功させたいだけです。王として君臨するというような野望は持っていませんよ」

首を横に振りながら僕は言った。

「だが実際にそのようなニュースになっているぞ」

「メディアは何かと大げさに書きたがるものです」

「もし本当に彼がそのつもりならば、私はどこかのタイミングで彼を潰すしかなくなるぞ。それも徹底的に、粉々にだ」

且つて見たことも無いような形相で父は言った。

「ご心配なく。有り得ないことです。彼は宇宙エレベータという商売を成功されるためだけに日々邁進しているのですから」

返答したその時、世界でほんの数人しか知らない僕へのホットラインの着信音が室内に鳴り響いた。相手はデイヴィッドだった。僕は慌てて回線を繋ぎ、彼の声が良く聞こえるようにスピーカのスイッチをオンにしてから話し出した。

「ちょうど良かった。デイヴィッド、まさかの話なんだが…」

「ニュースを見てくれたかい。G7は全くの期待外れだった。奴らになんか任せておけない。僕はなるよ、人類を統括する人間にね。ジョナサン、もちろん協力してくれるよね?」

スピーカーから聞こえてくる力強く明るい声に僕は呆然とするしかなかった。

「彼を潰す計画の立案と実行は、お前にやってもらう。何故なら、これからの世を支配する男は、ジョナサン、お前だからだ」

鼻先が触れるほど顔を近づけると、父は囁いた。

「ジョナサン、どうした?ジョナサン、ジョナサン、…」

徐々に遠ざかっていくデイヴィッドの声。目の前が暗くなっていくのを僕は他人ごとのように感じていた。

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