第24話 悔恨

 続々と連絡が入って来る。

「ジョナサン、君が投資するのなら間違いない。我が家も一枚咬ませてもらうよ」

これらは世界の中でレッドシールド家に準じる位置にいる資産家達からのメール。ほぼ同じ内容のものが10件近くにも上った。資産増間違いなしの投資先を求める気持ちは、どんなに金持ちになっても変わらない。とは言え、何故レッドシールド家に準じる立場なのかを彼らが考えていないのは間違いない。当面、我が一族を超える存在は現れそうにないと胸を撫で下ろす気分を彼らはもたらしてくれた。

「お兄様、デイヴィッドが凄く喜んでいるわ。僕らには明るい未来しか存在しないと、さっき連絡が来たの。ありがとう。あなたの愛する妹より」

こちらはケンブリッジのクレアカレッジに通う妹のニカからのもの。あと数年は夢見る気分に浸っているのも良いだろう。

「息子よ。アヴィアン・ローブナーから言い訳を長々綴ったメールが来たよ。御子息に足元をすくわれたとも書かれていたな。お前の決断がレッドシールド家の将来に禍根を遺すもので無い事を願うが、今回については諸手を挙げて賛成は出来かねる。何より、デイヴィッドが奏でる音楽は、私にとって気持ちの良いものではないのだ。いずれ、私が求めるタイミングと方法で、彼が世界の王足り得ない事を証明したいと思う。もちろん、その時はお前が攻撃隊長となるのだ。父親の命に背くべからず。これはレッドシールド家長男としての義務なのだ。それまでに今回の投資を清算する方法について、よく考えておくんだな」

父、ソール・レッドシールド男爵からのメールは心胆寒からしめるに充分な内容だった。先が思い遣られる。今から対処方法を考えて置かねばなるまい。悩みは増えるばかりだ。

「ジョナサン驚いた事でしょう。あなたがもたもたしてくれたおかげで、私は将来義弟になるかも知れない男の中で、確固たる地位を築く事が出来たと思うの。もちろん、万が一彼が失敗したとしても、その時はあなたがお金を返してくれるわよね?いずれにせよ、私が損をすることは100%無い。ありがとう」

ベアトリスからのメール。ああ、その通りだよ。むかっ腹が立つけれどな。

「ジョナサンありがとう。君が決断してくれた多額の投資のおかげで、僕はだだ宇宙エレベータの設置にのみ邁進できるよ」

デイヴィッドからのメールは、彼の感謝の気持ち以外の何ものをも感じさせる内容ではなかった。

 そう、彼は賭けに勝ち、何だかんだで200億ドルを手に入れた。僕はといえば、10億ドルで充分な立場を手に入れられるところを80億ドルもの莫大な投資をする羽目になってしまった。もし父親の命を真に受けるとするならば、将来棄てざるを得ない投資にも関わらずだ。

 この先どうする?微かな痛みを覚えて胃の辺りに手をやった。嫌、待てよ?かつて先祖達も苦い決断を必要とする時に飲んだのかも知れないな。こんな時こそ口にすべき秘蔵のワインが有る事を思い出しして、僕は笑みをこぼした。

「アマローネ」

苦みという名を持つ、かつては王侯貴族しか口にできなかったと言われるほど 贅沢に造られた稀少な赤ワイン。この酒はどんな筋道をこの身にもたらしてくれるのか。今宵だけは、このビロードのような舌触りを楽しむことに専念しようではないか。陰干しによって30〜40%も水分を飛ばした濃い赤色の液体を磨き抜かれたワイングラスに僕は注いだ。

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