第十四回 サヨナラは別れの言葉じゃなくて……


 長い夜は明けた。その時は、訪れたの。


 月曜日は駆け出したくなる日。四月の終わりは、また始まりの鼓動……ほら、すぐ向こう側で聞こえてくるの。ウチの名前を呼ぶ声。懐かしくも、パパの声。


 でも今は、ミズキちゃんの顔。とても近い距離。


「いい顔になったね、千春ちはる君。もう君は大丈夫だ」と、アッサリ。ここは食卓で朝御飯の真っ只中。アサリの味噌汁だけにアッサリと。ここでの朝御飯は和食。御飯とお味噌汁。


 ウチの家ではパン食。食生活の違いを感じたの。


「ホントにサヨナラなの? ミズキちゃん」


「諄いよ、君。君は知らないんだね、サヨナラの向こう側。サヨナラの言葉の意味」


「何それ?」と、じっと見るミズキちゃんの顔。


「サヨナラは別れの言葉じゃなくて、再び会うための遠い約束だよ。だから、絶対また会うんだよ、私たち。それに……千春君には、お願いがあるんだ」と、そっと手渡した黒光りした玉手箱。その中身は? ……日記帳。遠い日のあの子に渡るようにと、そっと言葉を添えながら、ウチは訊く「もしウチが開けたら、ボワッと白い煙が出るの?」と。


 すると、クスッと笑うミズキちゃん。


「どうかしらね。……でも、開けたのなら、私の言った意味がわかると思うの、君なら」


「じゃあ、お願いって?」


「その玉手箱を開けた時のお楽しみだよ」と、ポンと……ウチの背中を押した。


 そこには大きな穴が……


 まるでブラックホールのような巨大な穴……


 本当に一瞬のことだった。最後に見たのは泣き顔? それとも笑顔? それさえも確かめる間もない程。ウチは落下していった。時空を超えて。大気圏も何もない暗い穴。そう思った途端、パッと明るくなった。目の前には、眼鏡の背の高いおじさん……つまりその人がウチのパパなの。「良かった、気が付いたな」と、まだぼんやりした風景。


 ここは河川敷……ウチはずぶ濡れ。でも不思議……玉手箱は何ともなかった。



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