24.vsアオリ

 盛り上がる会場。

 コスモを羨ましがる人、ただ単に盛り上げる為に叫ぶ者など、実に様々である。

 ユリはドヤ顔で皆に、まるで自分のことのように、自慢していた


 コスモは、アオリの元へと行く。


「では、幸運なあなた! 軽く自己紹介を!」

「え、えーと……」


 ここで大々的に【剣聖】だと言い、バレてしまえば、大変なことになるかもしれない。

 おまけにアオリはSRランク冒険者だ。

 コスモの名も知っている可能性は、かなり高いだろう。

 そう考えたコスモは……。


「名無しです」


 目線を逸らし、気まずそうに、そう言った。


「なるほど☆ 匿名希望ってことだね! じゃあ、名無しのナナちゃんで!」

「あ、はい」


 自己紹介が終わると、今回の試合のルールをアオリは説明する。


「じゃあ、今日の試合のルールを説明するね! 今回私は、自作の特別なアイテムを使います! このアイテムはダメージがありません! 当たっても痛くないよ☆ 安心安全です☆」


 アオリはコスモにウインクを飛ばす。


「特性アイテムを10発、ナナちゃんに当てたら、私の勝ちだよ☆ じゃあ、スタートしよっか? 準備はいい?」

「私の勝利条件は?」

「え?」

「私の勝利条件はなんですか?」


 会場が静まり返る。

 そしてその後、アオリが大きな声で言う。


「な、なんと! 強気だー☆」

「つ、強気?」

「いやー! こんなこと言っちゃ失礼だけどさ、私SRランク冒険者だからさ、今までこういうことやっても聞かれたこと、なかったんだよね☆」

(なるほど)


 アオリはSRランク冒険者。

 今までのファンのは、勝つ為に参加していないのだろう。

 それもそうだ。

 本来であれば、勝てない相手なのだから。

 あくまで、アオリとの交流目的なのだろう。

 だが、今回のアオリの対戦相手は【剣聖】コスモ。


(折角やるんだから勝ちたい!)


 特にファンでもないコスモは、勝つつもりでいた。


(今までのSRランク冒険者にも楽々勝てたからね。今回もきっと楽勝な……ハズ)


 コスモが質問したので、勝利条件がアオリの口から発せられた。

 その勝利条件とは、アオリが降参と言うまで、又は戦闘不能になった場合だ。


「じゃあ! スタートしちゃうよ!」


 試合がスタートすると、アオリはアイテムを投げて来る。


(このアイテムは……?)


 水風船のようなボールだ。

 当たっても大丈夫だとアオリは言うが、今までの対SRランク冒険者の例もある。

 コスモは魔剣で、アイテムを叩き落とした。


「へ?」


 アオリはキョトンとした表情で固まった。


「今、結構な速度で放ったんだけどな……ナナちゃん凄いね!」


 アオリに褒められ、コスモはニヤリとした。


(こんな大勢の前で褒められるなんて、初めてだ!)


「ぐぬぬ! 余裕そうだね☆ だったら、私ももうちょっと本気出しちゃうぞ☆」


 アオリが多くのアイテムをその手に持つ。

 だが、それらのアイテムが放たれることはなかった。


(アイテムを使う前に壊す)


 コスモはアオリに物凄い速度で接近すると、魔剣で手に持っているアイテムを破壊した。


「えええええええええええええええ!? そんなのあり!? っていうか、もしかして君って……」


 コスモは後ろに周り、アオリの両手をガシッと抑えた。


「捕まえました」


 右手には魔剣を握っている。

 呪いにより、コスモは斬ることはできないが、脅しの道具としては十分過ぎる程、この武器はまがまがしかった。


「う、うぅ……こ、降参」

(え? 勝った!?)


 まさか、ここまで簡単にSRランク冒険者に勝ってしまうとは……。


 大きな声で盛り上がるというより、観客も「マジ?」、「何者?」などと、噂話をしていた。


 コスモはアオリを離すと、握手を交わす。


「ふふ」


 アオリがクスリと笑い、コスモにウインクを飛ばした。

 どういうことだろうか?


「凄く強いんだね☆ 私の負けだよ、ナナちゃん☆」


 普段負けた経験など無さそうなアオリだが、余裕そうだ。

 負けても冷静でいられるのは、おそらく、アオリの心までもがSRランクだという証拠なのだろう。


「アオリさんも強かったですよ」

「本当? 本当にそう思ってる?」

「え?」


 コスモが目線を逸らすと、アオリは意地悪そうに笑う。


「ごめんごめん☆ ちょっと意地悪しちゃった☆ だって強いんだもん!」

(強いか……ふふ! 正直余裕だったよ)


 「流石です」、「強い」などと、最近色々言われている。

 言われるたびに、自分は生まれ変わったのだと感じ、気持ちが良くなる。

 褒められるのは、やはり最高の気分だ。


「では、ありがとうございました! 私はこれで……」

「あれれ? 何言ってるのかな?」

「え?」

「これから大目玉のライブパートだよ! さぁさぁ!」


 コスモは歌もダンスも分からない。

 そもそも、アオリがどんな曲を歌うのかも分からない。


「口パクでもいいよ☆」

「いいんですか!?」

「いいよいいよ☆ とにかく楽しんで! 会場の皆も一緒に歌ってね! じゃあ、いってみよう!」

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