15.SRランク冒険者、クロス現る

 試合当日、2人は闘技場の控室にまで来ていた。

 もうすぐ、SRランク冒険者であるクロスとの試合が始まる。


「緊張しますね」

「私もだよ」


 コスモは信じる、【剣聖】の力を。

 自分のことは、信じることができないコスモであったが、このスキルに対しては絶対的な信頼がある。


(頼んだよ、私のスキル。これがあるから、私はここにいられる)


 コスモは緊張しながらも「フッ」と笑った。

 すると、審判から、呼び出しがかかった。


「じゃあ、行って来るよ」


 コスモはユリにそう言うと、フィールドに出る。

 審判がコスモのことを紹介すると、観客席から歓声が聴こえた。

 【剣聖】持ちということもあり、期待も高いのだろうか?


「お次に登場するのは、SRランク冒険者、クロスさんです!」


 再び、歓声が響き渡る。

 物凄い人気だ。

 これが、SRランク冒険者……。

 ユリが化物という程の実力者だが、外見は化物ではなかった。

 ツンとした目が特徴的で、年齢はコスモと同じくらいに見える。

 黒髪……いや、ユリとはまた違った、漆黒とも言える髪色だ。

 髪型はサイドテールで、歩くたびにそれが揺れる。


「あんたが噂の【剣聖】ね」

「クロスさん、よろしくお願いします。本日は遠くから、ありがとうございます」

「敬語はやめなさい。なんか気持ち悪いわ。それと、こっちには一瞬で来たから心配ご無用よ! 転移クリスタルを使って、ささっと来たわ! ま? 私、お金持ってるから?」


 自慢気であった。


「今日は、悪いけど本気で行かせてもらうよ」

「ま、精々頑張りなさい。あんたみたいなのがいると困るのよ。剣士最強は私だっていうのを、今ここで証明してあげるわ!」


 剣をビシッとコスモに向ける。


「審判! さっさと、はじまりの合図をしなさい」

「はっ!」


 クロスに向って審判が敬礼した。


「ルールは簡単! 戦闘不能になるか、敗北を認めた方の負けとなります! では、試合開始!」


 試合開始の合図が開始されると、クロスがコスモに向けて接近しようとする。


「このスピード、見切れるかしら?」


(あれ?)


 コスモが想像していたよりも、遅かった。

 一般人のヨシムラでさえ、数倍のスピードでコスモと互角に近い戦いを繰り広げていた。

 となると……。


(手加減している?)


 コスモは【剣聖】を持っているが、冒険者としては素人だ。

 それもあり、もしや、クロスはかなり手加減をしてくれているのではないだろうか?


「なっ!?」


 コスモが魔剣を使い、余裕でクロスの攻撃を弾くと、クロスは驚いたかのような表情を見せた。


「はっ! やるわね! ちょっと甘く見てたわ!」


 クロスは勝ち気な笑みを、コスモに向ける。

 この発言、やはり手加減していたようだ。


「食らいなさい! 私の連撃を! SR冒険者1のスピードを自称している私についてこられるかしら?」


 クロスは様々な方向から、コスモに攻撃を仕掛ける。

 最初は「そんなもの?」、「やるわね!」など、余裕そうな発言を繰り返していたが……。


「はぁ、はぁ……うざ!!」


 息をあげ、コスモを睨み付ける。


(まだ本気を出してない……訳じゃないよね?)


 確かに先程よりもスピードもパワーも上がっているが、それでもまだまだヨシムラ以下だ。

 ここでコスモは失礼なことを考える。


(もしかして、SRランク冒険者って……あんまり強くないの……?)


 ヨシムラと戦っていなければ、比較対象がいないので、ただ単に【剣聖】が強すぎるとだけ思っていただろう。

 だが、比較対象の一般人ができてしまった為、失礼ながらもこのように感じてしまった。


「あんたさ、何いい気になってるの?」


 息切れしながら、クロスが言う。


「あんたのスキルはさ、身体能力強化系でしょ? だったら……こんな真似はできないでしょ!? 本当は使いたくなかったけど、剣士最強を証明する為に、使わせて貰うわ!」


 クロスは手の平に黒いエネルギーを出現させる。

 球体のそれを、コスモに向けて発射させる。


(まさか、魔法!? 魔法は確か、エルフにしか使えない筈じゃ!?)


 コスモはかわした。

 だが、思わず驚いてしまう。

 避けるのは容易であったが、問題は人間であるクロスが魔法を使ってきた点である。


「驚いているみたいね! そう、私は私のスキルによって魔法が使えるのよ!」


 魔法がヒットした個所は大きくめり込んでいた。

 観客の悲鳴も聴こえる。

 まさか魔法が飛んで来るとは思っていなかったのだろう。


「さぁ! いくわよ! ダークボール、連続発射!!」


 クロスは目の前に複数の黒いエネルギーの球体、ダークボールと言ったそれを、出現させ、自信の剣で振り払う動作をする。

 すると、一斉にそれは発射された。


(ここで私が避けたら……!)


 先程は壁だったが、観客に被害が及ぶ可能性も高いだろう。

 コスモは魔剣を用いて、ダークボールを全て、地面に打ち落とした。


「はああああああああああああああああああ!?」


 クロスは叫んだ。


「これだけの威力の魔法に物理で対抗したの!? あり得ないわ!? あり得ないわよこんなこと……こんなこと!! 何が……何が剣聖よ!! 剣士最強は私だああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 クロスは叫ぶと天に向かって、剣をかかげた。

 すると、今度は先程のダークボールの比ではない大きさのものを生成した。

 闘技場をもおおいそうな、大きさだ。

 まさか、これを放つのだろうか?

 だとすれば、観客の多くは死ぬだろう。


「驚くのはまだ早いわ!!」


 その巨大なダークボールが、クロスの身体にオーラのようにまとい、更には剣にもまとわりつく。

 剣は赤黒い、邪悪な色となった。

 だが、そのおかげで巨大ダークボールが消えた。

 力が、クロスに凝縮されたのだろう。


「あんただけは殺す!! 致死率100%の技を食らいなさい!! 死ね!! コスモ!! 私は剣士最強だああああああああああああああああああああああああああ!!」


 クロスはおそらく、コスモに本気で殺意を抱いているのだろう。

 そう思わせる勢いで、コスモに襲い掛かる。


「死ねええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

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