12話 オタクのデートはやっぱり聖地

「今日は晴れて良かったな」

「そうだね」


 そう言って、俺たちは小声で話す。

 何故なら今、俺たちは電車にのっているからだ。


 時刻は11時前。

 俺たちは二人でとある場所に向かっていた。


「楽しみだな」

「そうだね!」


 俺たちは少しソワソワしながら、片道一時間の目的地に期待を膨らませていた。


 どうしてこんなことになっているのか、それはつい数日前に遡る。




「ねぇ天斗」

「ん?」


 ラノベの新刊を買うため、近くの本屋に寄った帰り、ふと瑞希が話しかけてきた。


「その、さ。この前の約束覚えてる?」

「ん?なんだそれ?」


 俺は訳が分からず疑問符を浮かべると、瑞希は少し言いにくそうにした。


「いや、さ、ほら。この前、水族館言った時さ、お詫びって言ってた……」

「あー、あれな。忘れてはないよもちろん」

「ほんと?じゃぁ、今週の日曜日でどう?」

「うん、大丈夫」

「分かった。ありがとう!」


 行き先は後で伝えるねと言い、彼女は電車に乗った。




 と言うことがあった。


 そしてまぁ、気になる行き先というのが……。


「やっぱり月一では行きたいよね」

「そうだなやっぱりあの空気がいいよね」

「だな」


 そう、俺たちオタクにとって、最も居心地のいい場所。


 行き先は、秋葉原だった。




「到ちゃーく!」


 駅を降りると、双方にそびえたつ建物に囲まれながら、瑞希は両手を上げてそう叫んだ。


「何度来てもいいな、この景色は」

「だよね!」


 俺と瑞希は、早くもテンションが爆上がりだった。


 当たり前だろう。

 秋葉原なのだから。


「いつも通りの順番だよな」

「もちろん」

「じゃ、行くか」

「行こう!」


 そうして、俺と瑞希はオタクの聖地へと旅立った。




「そろそろ休憩するか」

「そうだね」


 しばらくオタクの町を最高にエンジョイした俺たちは、時計を見て既に14時を回っていることに気が付いた。

 そして、時間を意識すると、必然とお腹が空いていることにも気が付き、俺たちは近くのファーストフード店に入った。


「じゃ、早速買った物見ていくか」

「そうだね」


 そう言って、俺たちは一つずつ袋から出して、語り合った。


「まずはコレだよね」

「サイン本か~やっぱり外せないよな」

「そうそう。これを飾ると何だか特別な気がするんだよね」

「分かるわ。なんか、あれを眺めてる時間が最高なんだよな」

「そう!」


 そう言って、瑞希は輝いた瞳でサインを眺めた。


 そう言えば、彼女の部屋に言った時、例の部屋に多くのサイン本が飾ってあったのを思い出した。

 なるほどそれなら納得だ。


「それで、天斗は何を買ったの?」

「俺はな、コレだ」

「タペストリーね」

「そう。週替わりぐらいで掛け替えるのが好きなんだよな」

「分かるよ。変えるだけで雰囲気変わるもんね」

「そうなんだよな。俺、狭い部屋だから余計に変化の度合いが強くなるんだよな」

「なるほどね」


 俺たちはそれぞれ自分の部屋を想像して、楽しくなる。


 そんな感じでワイワイがやがやしていると、瑞希が不意に話題を変えて話し出した。


「そうだ、今度天斗の家に行かせてよ」

「ん?いいけどどうしてだ?」

「天斗の部屋見てみたいし」

「まぁいいけど」

「ほんと?約束だからね?」

「ああ、もちろん」


 俺がそう言うと、瑞希は嬉しそうに笑った。


 そんな姿を見ていると、少しだけ頬の熱が上がる。

 しかし、そんな些細な変化には、俺が気づくはずはなく、そのまま談笑を続けるのだった。




「つ、疲れた……」

「マジで、足動かん」

「だね」


 日が沈み、辺りが暗くなった20時頃、俺たちは遊び疲れて駅のベンチで伸びきっていた。


 あの後、もう一度街に駆り出た俺たちは、まだ言っていなかった中古ショップや、ゲームセンター、本屋などをはしごし、時間も忘れて最高の時を楽しんだ。


 そして、そんな魔法が溶けると、突如として体に重力が戻ってきて、体の疲労に気が付いた。


「今日は楽しかったな」

「だね」

「誘ってくれてありがとな」

「何言ってるの?これは天斗の罪滅ぼし的な奴でしょ?むしろ私が連れまわしちゃっただけだし」

「そういやそうだったな。でも、楽しかったからやっぱりありがとう」

「何それ。まぁ、どういたしまして」


 そう言って、俺たちは笑い合った。


 なんだかんだ、一年の時から仲が良かっただけ会って、俺と瑞希は息が合う。

 正直、クラスの男子とかよりはよっぽど話しやすいし、話していて楽しい。


 そんなことは分っていたが、こうして休日も遊ぶようになって、改めてそう思ったのだ。


 だからこそ、だからこそだ。

 この感情に、気がついてはいけないような気がしていた。


 それは、意識的にそう思うのではない。

 感覚的に、何となくそう思うのだ。


「あ、電車来た」

「ほんとだ、立ちたくねぇ」

「そんなこと言ってたらおいてくよ」

「薄情な」


 俺はそう返事をして、彼女について行く。


 あぁ、このまま、ずっと、この関係でいられたらな。


 俺はそう思うと、閉まるドアに駆け込んだ。

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