悪魔令嬢はともだちがほしい!!~友達はいないけど猫ならいる。だから殿下の溺愛はいりません~

ゆいレギナ

第1話 友達を作るためならえんやこら!


「まぁ、あの怖い顔を見まして?」

「悪魔宰相デイバッハ伯のご令嬢でしょう? いくら格が高い方でも……悪名高い方とお近づきになるのは御免ですわ……」


 そう遠くからコソコソと言われているのが、この私。

 ミーリャ=フォン=デイバッハ。


 黒髪、赤い瞳の三白眼。だけど小柄な令嬢が私だ。

 父は私欲のためなら暗殺、恐喝、拷問、何でもござれとして有名のゴルドラーダ=フォン=デイバッハ伯爵。本来ならば侯爵としての地位を賜ってもいい成果をあげているが、あまりにやり方があくどいため、未だ伯爵であると噂の通称『悪魔宰相』の娘だから、悪魔令嬢。なんてわかりやすいあだ名だろう。


 ……まったく嬉しくない呼称だけど!!


 だけど、ここで怯んでいたら友達なんかできやしない!

 いくら父様に似て目つきが悪くても、犬歯が人より尖っていようとも。


 せっかく父様に頼み込んで学園に入れてもらったんだもの!

 家で話す相手も兄弟ばかり。社交界に出ても壁の花。

 今度こそ、私は女友達を作るんだ‼


「あ、あの……」


 同じクラスでコソコソ話をしていた令嬢たちに話しかける。ビクッと怯えられちゃうけど……少しずつ、噂や見た目ほど怖くないよっていうところを見せて行かなくちゃ。


「自分でクッキー、焼いてみたんだけど……もしよかったら……」

「ど、毒ですわ~~っ!」


 ひどい、毒なんて入れてないのに!

 だけど弁明する暇もなく、彼女たちは勢いよく逃げて行ってしまう。ならば他の人にと視線を巡らすも……みんな敢えて私から目を逸らして、「寄るな寄るな寄るな」「話しかけてこないで神様~」と祈るばかり。


 ……父様譲りの地獄耳なんて、なければよかったのに。

 私は今日もしょんぼりと放課後をひとりで過ごすことになりそうである。 




「そんなに私、怖いかなぁ~……」


 私はとぼとぼと裏庭を歩いていた。

 校舎裏のこの場所は見どころという花もなく、いつも人気がない場所だった。


 ……いや、正確に言えば。入学して三か月。さすがに人気の薔薇園をウロウロしていたらあまりに視線が痛かったので、それじゃあ裏庭でのんびり過ごしているような人とお近づきになろうと毎日訪れるようになったら……だんだん人気が少なくなった。今では『悪魔の召喚場所デーモン・サークル』なんて異名が付いた始末である。


 人もいないのに、なぜこんな場所に来たのか。

 それは、ここに私が唯一お喋りできる相手がいるからだ。


「みゃあ……」

「あ、ミャアちゃん!」


 野良猫のミャアちゃんである。「みゃあ」と鳴くから「ミャアちゃん」。我ながら安易なネーミングだと思うが、私もミーリャで少し似ているでしょ? ちょっとお気に入りなのである。


「もう、今日もそんな泥んこなの?」

「みゃあ?」


 初めてミャアちゃんと出会った時も、ミャアちゃんは泥だらけだった。

 しかもお腹が空いていたのか、やたら私の足元で「みゃあみゃあ」鳴く。


 ――可愛いいいいいいいい♡


 触れ合いに飢えていた私は、喜んで世話をしたものだ。

 まず、自分の湯あみ用のお湯を分けて猫を洗ってやった。他の子たちは大きな大浴場を利用しているが、私が行くとみんな逃げてしまうので、普段は特別お湯だけ分けてもらい、部屋で身体を拭いていたのだ。だからその日は自分のお湯がなくなってしまったのだけど……銀色の毛並みが綺麗なシャム猫さんとお近づきになれたのだ。どうせ私のそばには誰も寄ってこないし、たまになら全然惜しくない。


 その後、私は自分の夕飯を分けようと思ったんだけど……ミャアちゃんはひたすら私のポーチをザリザリしてくる。ポーチに入っているのは誰にも食べてもらえないクッキーだけ。クッキーを猫にあげていいのかわからなかったけど……おそるおそるあげてみたら、大喜びで平らげてくれた。


 ――嬉しいいいいいいいい♡


 そんなこんなで、仲良くなるのは必然だったわけで。

 ミャアちゃんはいつもいるわけではないけれど、こうして通っていたら週に一度くらいは会えている。本当なら毎日会いたいところだけど、ミャアちゃんにも予定があるのだろう。わがままを言ってはいけない。せっかくできたお友達なのだ。


 それに……ミャアちゃんのこと、巷では『悪魔令嬢の使い魔』なんて言われちゃっているからね。仲良くしすぎるのも可哀想だろう。


 だから会える時はとことん可愛がるのだ!

 今日も、私はミャアちゃんを洗ってあげながらここぞとばかりに話しかける。


「ねえ、ミャアちゃん。私ってそんなに怖いかなぁ?」

「みゃあ?」

「たしかに顔はちょっぴり怖いかもしれないけど……でも、クラスで一番小さいよ? 誰かと目が合ったらちゃんと笑おうとしているし、『暗殺が趣味』とか噂されているけど……趣味じゃないもん。趣味はお菓子作りだもん……」


 ちなみに、私の笑みには『悪魔の笑みリミット・ライフ』なんて名前がついて『その笑みを見たら100日後に死ぬ』なんて噂が立っているし、暗殺だってできないとは言えないのが切ないところ。……だって父様が『殺し方100選をマスターしたあかつきには入学を許可してやろう』と言われたもので。元から80通りくらい覚えていたけど、詰め込み20パターンも頑張って極めた。


 そう――これもすべては女友達を作るため!


 ずっと夢だったのだ。可愛い女の子たちが、嬉しそうに私の作ったお菓子を食べてくれる。そしてお喋りの花を咲かすの。だれだれがカッコいいとか、どこどこのお菓子も美味しいとか。そして『それではみんなで行ってみましょう』とか言って、次の約束を取り付ける。なんて幸せハッピーエンドレス。


 最高か? 最高だよね?

 常に液体栄養食を啜りながら『どこどこの侵入経路はどうたら』とか『○○の暗殺はこうだった』とか『こないだの拷問は笑えた』なんて血と絶叫に塗れた男らしい我が家とは無縁のキラキラ世界。


 父様や兄様たちは『無利益な会話のどこがいいんだ?』と嘲笑してくるけど、私は女の子なんだもの! 女の子らしい青春、送ってみたい!


「みゃあみゃ」


 ミャアちゃんが前足を伸ばしてくれる。

 ……これは、頭を撫でてくれようとしているのかな?


 私がそっと頭を寄せてみれば、案の定トントンおでこ付近を優しく叩いてくれて。肉球がふにふにしていて、やっぱり可愛いしかない。


「も~、ミャアちゃん大好き!」


 私はミャアちゃんを抱きしめる。

 今は友達はいないけど、ミャアちゃんが居てくれる。


 だから頑張るよ、ミャアちゃん!

 いつか友達たくさん作って、ミャアちゃんにも紹介してあげるからね!

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