第16話 もしかしたらこの子は商才があるのかもしれない

 サンズライン共和国はティルスター王国、ムーンレイル帝国と比べ人口が多い。細かいことを言うのなら、人族の人口が多いことが特徴だ。

 国家の気風として、主に文化レベルの発達がすさまじく、異世界転生者がトップになってからというもの、この国では革新的な道具、技術がつぎつぎと生み出され、それを元手に各国と渡り合っている、商業国家だ。


 サンズライン共和国に入国したパーシル達もそれをひしひしと感じていた。


 舗装された道に様々な商品を乗せた馬車が行きかい、どのような魔術なのか、往来する人々の中には二つの車輪でバランスを取り人を運ぶ乗り物のような道具を巧みに操る者たちがまぎれている。

 様々な文化が渋滞し、目まぐるしく人が流れていく。パーシルはその光景にティルスター王国の収穫時期の様な慌ただしさを思い出したが、以前このサンズライン共和国から来た商人の話ではこれがこの国の普通らしい。


――人が多い、が、奴らの姿は……さすがになさそうだ。


 パーシルが見渡す限り、サンズライン共和国の中心部は様々な物品を売る人間とそれを買う人間だらけだった。

 どうやらアイフィリア教団が待ち伏せているなどというトラブルはなさそうだと、パーシルは胸をなでおろした。


――まあ、まだまだ油断はできない。だが、何はともあれ……


 まず、パーシルは、この国で活動するに当たっての拠点を手に入れることにした。


 この国は商業で発展してきた国である。

 パーシルは、そこを利用することにした。

 冒険者仲間の中では有名な話だが、引退した冒険者はだいたいサンズライン共和国に隠居する。

 なぜなら、サンズライン共和国は何かしら商売をする場合、国営の商業ギルドに出店の許可を取れば拠点となる店を比較的安く貸し出してくれている制度があるからだ。


 それに便乗して、活動の拠点を手に入れようとパーシルは考えていた。


 さっそく国営商業ギルドに向かったパーシルだったが、ギルドの前で腕を組んだ。


「さて商売するといったが、何を始めればいいのか」

 

 パーシルは自分にできることを考える。

 体力には自信があるので、荷運びなら問題がない。

 ヴェインを抱きながらになるが、それはそれでトレーニングになるだろうとパーシルは考えていた。


「なら、一つ、提案」


 隣に立っているヴェインが手を挙げた。

 その提案とヴェインが用意した食品にパーシルは、驚いた。

 だが、そっちの方が店に滞在できる時間が確保され、ヴェインの警護をしやすいそうだと判断し、パーシルはヴェインの意見を採用することにした。


 かくしてギルドにはいったパーシルは店舗貸出の必要事項を記載し、受付の男性に提出した。


「えー、名前は、パーシルさんですね。商業登録をいたします。区分は食品の販売。詳細はきゅうりを使った保存食の販売ですか? なかなかトライアルですね」

「ははは……とりあえず頑張ってみます」

「わかりました。それでしたら、この地図のこの店がちょうど空いていますので、最初に登録料と合わせて銀貨五枚、月銀貨一枚での貸し出しができますが、いかがですか?」


 そういって、受付の男性が示したのは城下町のメインストリートから少し離れた場所にある一角だった。

 人通りはさほど期待できないが、それでも拠点としては申し分のない場所であった。


「分かった。それならそこで」

「毎月初めには家賃の支払いをお願いします。2か月以上おくれた場合には強制調査が入り、内容次第には国外追放となりますので気を付けてください」


 パーシルは事前に荷物をいくつか売り払って用意していた銀貨5枚全てを払い、拠点となる店のカギを手に入れた。


「どうだったパーシル」

「無事店を持つことになったよ」

「おー、おめでとう。これで一城の主ってやつね?」

「ホント、成行きとはいえ。まさか店を構えるなんてな」


 そうしてパーシルとヴェインはレインとアーランドと合流し、借りた店舗へと向かった。

 借りた店舗は商業ギルドから歩いて30分ほどの離れた場所にあり、強豪店が並ぶメインストリートとその少しはずれにある露店や屋台が立ち並ぶエリアのちょうど真ん中に位置していた。

 店の中は10人ほどが余裕をもって入れる広さで、最近まで使われていたのか埃が少なく、以前の名残からか大きなカウンターと酒を並べるための棚が一つずつ残されていた。


「へー、結構いい場所じゃない」

「そうだな。掃除をすればそのまま使えそうなものが多いのは助かる」

「ところでパーシルこの店で何をするんだ?」

「ああ、今回はヴェインが提案したんだ」


 そういうとパーシルが売る予定の商品を皿に盛って二人にも見せた。

 それは塩とお酢で作られたきゅうりの保存食――俗にいうとこのピクルスであった。


「……これ、あのきゅうりか?」

「そう、あのきゅうりだ。保存も効くし、結構味もある。なによりライバルが少ないのがメリットだ」


 そういって、パーシルは切り分けたきゅうりを差し出す。

 それを食べた二人は少し驚いたような顔をした。


 ヴェインは少し自慢げに胸を張った。 

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