第13話 この戦闘は危険かもしれない

 奇襲を崩した時点で、パーシル達はかなりの優勢に立っていた。


 人はなぜ武器を使うのか? 様々な理由があるが、その最大の理由は攻撃のリーチを伸ばすためである。

 体格プラス武器のリーチ、それが優れている方が勝つ、単純な殴り合いならなおのことだ。


――だから、奴らは『奇襲』を選択した。


 彼らにどこまでの知性があるのか、パーシルは理解しきれなったが、だが、なぜ『奇襲』を選択したのかは理解した。

 岩から降りてきたトカゲ頭のゴブリンは6体、それぞれ40センチほどの棍棒を手にしている。

 おそらくは攻撃におけるリーチの不利を不意打ちで潰そうとしたのだ。 


「なんだ、こいつらは……」

「オトリに奇襲……こいつらは知性が高い。アーランド、警戒しつつ、確実に行こう。レインはそのまま周辺警戒を」

「オッケー。わかったわ」

「私は右から行く」

「なら、俺は左からだ」


 パーシルはヴェインが落ちないように抱き直した。


「ヴェイン――ありがとうな。助かった」

「……なんてことない」


 久しぶりに聞いたヴェインの声にパーシルは笑った。


「揺れるからな。気をつけろよ」

「ステータス――オレM手伝う」


 ヴェインは敵のゴブリンの少し手前を見つめた。

 手を左右に滑らせ、何か文字を追うように目を動かす。

 それはいつか見せた、相手の才を見破る転生者の動きだった。


「敵の名前、ドラゴンゴブリン。全員、魔術使えない。装備、棍棒、あと腰後ろ、糞で汚した投げナイフ……なんだこれ」

「破傷風を狙っているのか……!」


――そうなるとこいつらの狙いは、俺たちの戦力を削ぐことか。捨石になってまで。


 そう考えると奇襲が失敗したトカゲ頭のゴブリン……もといドラゴンゴブリンが逃げ出さない理屈も筋が通る。

 さらに、そのあと追撃してくる部隊が現れるかもしれない。


「アーランド! 腰のナイフに気をつけろ! 破傷風狙いだ!」

「何を根拠に」

「ヴェインが言っている。信じてくれ!」

「……心得た」


 時間をかけてはいられない状況だと理解したパーシルはヴェインを抱いている左腕に力を入れた。


 このまま突撃し、もしヴェインが傷を受けてしまうと、破傷風が発症してしまうリスクがある。

 だが、パーシルたちの人数ではヴェインを地面に置いて守りつつ、戦う選択肢は取れない。

 また、パーシルの後ろで後方警戒を行っているレインにヴェインを預ける選択肢もあるが、その場合パーシルがドラゴンゴブリンたちに背を向けることになり、それはそれで危険だ。


――ならば、このまま行くしかない。


「攻撃を仕掛ける! アーランド!」

「おう」


 パーシルは剣を構え、左から回り込みつつ、アーランドとドラゴンゴブリンを挟撃した。


「ケェラ!?」


 敵との距離を詰めたパーシルは剣を右から左に払いドラゴンゴブリンの側頭部を強打する。

 ぐきりと鈍い手ごたえとともに一体目、一番左に位置したゴブリンが絶命し、膝を折った。


 すぐさま、そばにいた二匹目のドラゴンゴブリンがパーシルへ向き、棍棒を捨て、腰に手を回す。


「させるか!」


 パーシルは横なぎの勢いを殺さず、剣の軌道を縦に切り替え、ナイフを抜こうとしたドラゴンゴブリンの脳天を素早く強打する。

 その強烈な一撃を浴びた二匹目のドラゴンゴブリンは目から血を流し、動かなくなった。


「ケェラァ!! ケェラ!!」


 残りの4匹全員の敵意が自身に向いたことを感じ、パーシルはすぐさま一歩下がりドラゴンゴブリンたちから距離を取った。

 体の側面を敵に向かせ、距離を作るため剣を突出し、ヴェインをかばいながらドラゴンゴブリンを牽制する。


「ケェラァ!!ケェ――――」


 とたん、不快な声を発した頭はごろりと落ちた。

 注意がそれたことを利用し、アーランドがドラゴンゴブリンたちの側面から強襲したのだ。

 完全に意識外から攻撃を受け、奴らはなすすべもなく、一太刀、二太刀とアーランドの斬撃の前に首を落としていった。


 結果、ドラゴンゴブリンたちにナイフを抜かせることなく、パーシル達はこの局面を切り抜けることができたのだった。


「これで全部だな。……本当にナイフを持っているぞ、パーシル」

「うう、いやな匂い……」


 念のため残りのドラゴンゴブリンの首も落とし、パーシル達は彼らを装備を確認する。

 すると、ヴェインの言うとおり、全てのドラゴンゴブリンは異臭のするナイフを所持していた。

 アーランドはナイフを集め、念のためとドラゴンゴブリンの皮をはぎ取り、火のそばに持ち寄り乾かし始めた。

 奴らの臭いを利用しパーシル達の行方をかく乱させるつもりなのだろう。


 パーシルも火にあたりつつ、ヴェインの様子をうかがう。

 ヴェインは疲れたのか眠ってしまっていた。

 これは大物だなと、パーシルはヴェインの頭を軽く撫で、体温が逃げないようにと布をかけ直した。


「とりあえず、ちゃんと聞いておこう。この子は、ヴェインは転生者なのか?」

「おそらく。俺も本人から聞いたわけではないから……言っていなかったか?」

「言っていないわよ! ――まあ、こんな事態だから察してはいたけどね」

「それは、すまなかった……」

「まあ、10年ほど組んだ仲だからな。言わずともわかるがな」

「だってさ。あんた戦闘の時はしっかりしてるのに、本当こういうときは口足らずよねー。」


 レインに小突かれ、パーシルは小さくなった。

 その様子を見たレインとアーランドはくすりと笑った。


 パーシルも二人につられて少し笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る