第32話



 クラウディアは、アネットとの面会を定期的に継続し自分が必要だと感じた民の為の施策を提案した。



 クラウディアと同様に聡明で仕事のできるアネットはその提案に耳を傾けるだけでなく、より良い案を挙げてくれることも多々あった。そしてアネットは、クラウディアと考えた案を国の施策に盛り込んでくれた。




 勿論、アネットとの面会では何も小難しい話ばかりしている訳では無い。



「レジナルド様ったら、誤字ばかりの報告書を胸を張って持って来るんですの!あの偉そうな顔、堪りませんわ!」



「まぁ!その後どうされたのですか?」



「勿論沢山褒めましたわ!あのお顔がもっと見たいですからね!」



 そうアネットがダメ男トークを繰り広げると、クラウディアも負けじとイケオジトークを披露する。



「先日、とても暑い日があって。畑作業中のテオドール様にタオルをお待ちしたら『……汗臭いと思うからあまり近づいてはいけない』って仰るんです。その時の恥ずかしそうなお顔が……!」




「クラウディア様、もしかしてそのタオル……。」




「……うう、言えません!」




 キャアキャアと盛り上がる二人は、年齢相応の令嬢そのものだ。……話の内容は決して令嬢の話すものとは思えない酷いものだが。



 クラウディアに付いてくれているサムとジョアンナも口を挟むこと無く、楽しく貴重な時間を自由にさせてくれている。クラウディアは、そんな二人に心から感謝していた。







◇◇◇◇





「テオドール様。」



「ああ。ジョアンナ、サム。今日の報告を頼む。」



 クラウディアが就寝後、ジョアンナとサムは毎晩テオドールの私室でクラウディアに関する報告をしていた。勿論夕食時にテオドールが直接クラウディアに今日の出来事など尋ねてはいるものの、体調不良は起きていないか、不穏なことは起きていないか、丁寧に確認していた。



 二人はいつものように報告した……だがジョアンナが最後に爆弾を落とした。




「クラウディア様は、テオドール様が汗を拭かれたタオルの匂いを嗅いでいるようです。」



「なっ……!」



「ちょっと!ジョアンナさん!」



 狼狽えるテオドールだが、ジョアンナを諌めるサムを見てジョアンナの言葉が真実なのだと理解する。



「……そうか。」



 聞きたい。クラウディアの反応を、言葉を。だが、もしあの可愛い婚約者に「臭い」なんて思われていたら?想像するだけで、身体中が凍えそうになる。





「……クラウディア様は顔を赤らめていましたので、ご安心を。」




「そ、そうか!」



 嬉しそうに表情を緩める主人を、ジョアンナはギロリと睨んだ。その顔を見たテオドールもサムも後退り、息を呑んだ。





「私が言いたいのは!汗の匂いまで嗅がれて!何故関係が全く進んでいないのかということです!」


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