第28話



「テオドール様、それって……。」



 期待と不安でいっぱいになりながら、クラウディアは恐る恐る尋ねた。



「……っ!」


 テオドールは顔を赤らめたまま、クラウディアに触れている手とは逆の手で自身の頭をがしがしと掻いた。大きく息をついた後、クラウディアと目を合わせると不安そうに口を開いた。




「……クラウディアが元気が無ければ元気づけたいと思う。俺が落ち込んだ時は、クラウディアが近くにいてくれたら嬉しい。それは……。」



 テオドールはクラウディアをぎこちなく引き寄せると、ふわりと優しく抱きしめた。




「君を、ディアを、愛おしく想っているからだ。」



 クラウディアがずっと求めていた、テオドールからの想い。テオドールから愛の告白をされたら、どんなに幸せで、天にも昇る気持ちだろうと、ずっと想像していた。だが実際は色々な感情が入り交じり、クラウディアの瞳からはぶわりと大粒の涙が零れた。





◇◇◇◇




「……落ち着いたか?」



 随分と長い間、涙を流し続けたクラウディアをテオドールは優しく抱きしめ背中を擦り続けた。



「……ごめんなさい。」



「いや、悪いのは俺だ。クラウディアを悲しませる態度ばかり取って来たのだから。」



「そんなこと……っ!テオドール様はずっと優しくて、私を大事にしてくれて……っ!」



 クラウディアの瞳に、またじわりと涙が浮かぶ。テオドールはクラウディアを初めて大事にしてくれた人だ。だから大好きで、だから好きになってもらえないことが悲しくて。


 先程の告白だってとっても嬉しい筈なのに、どうしてかテオドールの気持ちを疑ってしまう自分がいる。



「混乱させてしまってすまない。クラウディアの父上のこともあったのに、余計に負担を掛けてしまったな。」


 クラウディアはテオドールの胸の中で、ふるふると首を振った。その可愛らしい仕草に、テオドールは目を細めながらクラウディアの頬に落ちる涙を丁寧に拭った。



「クラウディアの父上のことも、無理に信じろとか、今までのことを許せ、と言っているんじゃないんだ。ただ、新しい婚約者なんていないことを伝えたかったんだ。」


 小さくこくりと頷くクラウディアの頭をテオドールは愛おしそうに撫でた。



「俺の気持ちを信じられないのも無理はない。これからは俺がクラウディアを口説いていくから。」


 甘い言動の数々に、クラウディアは胸を高鳴らせた。





◇◇◇◇



 その頃、部屋の外では……。



「テオドール様っ!!押せ~!!今!!押すんですよ~!!」



「さっさと口づけの一つや二つ、やってしまえばいいのに……本当にヘタレな方なんですから。」



 テオドールの従者サムと、侍女のジョアンナが扉の前で二人を見守っていた。サムは拳を握りテオドールを応援している。一方でジョアンナは終始呆れた口調だが、内心はハラハラと成り行きを見守っていた。



「早くアネット様にご報告したいですね。」



「ええ。きっと喜ばれます。」



 サムとジョアンナは笑顔で頷き合った。




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