第16話


 一通り、テオドールの工房を見終わると、テオドールはずっと気になっていたことをクラウディアへ尋ねた。




「クラウディア嬢は何か趣味などは無いのか?」




「趣味、ですか?」



 クラウディアは、目をぱちくりさせた。テオドールは、出来ればクラウディアに楽しく過ごしてほしいと考えている。この家にいる間に、好きなことをさせてやりたいのだ。幸い、自分は経済的にも恵まれているので、旅行でも、宝石でも、芸術鑑賞でも、多少の無理は聞いてやることは可能だ。だが、クラウディアから返ってきた答えは、テオドールの予想とはかけ離れたものだった。





「恥ずかしながら、趣味と言えるものが無いのです。子どもの頃から、王太子妃教育と公務ばかりで……。強いて言えば、執務は得意だと思います。」




「な……!」



 テオドールは、言葉を失ってしまった。クラウディアは若い女性だ、他の同じ年代の令嬢なら、ファッションや美容、お茶会やショッピングなど、多様な趣味があるだろう。だが彼女は、何年も好きなことに気付けないような状態で、そればかりか執務を得意だという。こんなにもクラウディアに、負担を強いていた甥と弟夫婦に怒りが込み上げた。




「テオドール様?」



 不安そうな瞳で問いかけるクラウディアに、テオドールは気持ちを切り替え、質問を続ける。




「すまない。私の質問が悪かった。今、何か興味のあることや、してみたいことはないか?」




「それでしたら……。」



 クラウディアは美しく、ふんわりと微笑んだ。





「今日、見せていただいた野菜作りと、木箱作りをしてみたいです。」



 勿論、テオドール様の許可を頂けるのであれば、ですが、とおずおずと付け加えるクラウディア。これまで好きなこと一つ見つけ出す時間がないほど、多忙だった哀れな彼女の願いを断ることなんて、テオドールに出来るわけがなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る