第16話 トゥモの手紙。

ミチトは多くを言わずに転移術を使う。

初めに出たのは空気の冷たい山の麓だった。


「ここはどこ?」

「ズメサ…。俺の第二の別荘のある場所さ」


コーラル達は話ばかりで来たことのなかったズメサの別荘に入ると、「これは俺の生家をスティエット村から持ってきたんだ。ジェード達がすごく気に入ってね」と言うと、ヘマタイトが「トゥモお爺様が後年気に入られて独占していました」と報告する。


「マジか…。内装は変えてないな。ここが俺のおじいさん達の部屋、こっちが俺が使ってて、ナハトが使った部屋、それでこっちは地下室。地下室にはひとつ秘密があってね。俺のおじいさんが将来俺が見つけられると信じて手紙を隠して…」


ミチトは言葉に詰まると「あれ?隠し場所が直してある。誰だ?」と言って、触れると中から手紙が出てきた。


コーラルが「手紙ですか?」と聞くと、ミチトが「うん…。アクィ、この字…」と言ってアクィが「トゥモだわ」と言った。


手紙を読んだミチトが嬉しそうに「トゥモらしいなぁ。嬉しいよトゥモ。古代語の勉強までしたんだね?禁術を編み出したかったのか」と言うと、アクィは「読めないわ。私のことまで考えなさいよ」と怒る。


「俺!ザップさんに教わってるから、少しなら読めるんです!」

「うん。ザップさんは原石だと褒めてたよ。読めたら読んで。後はザップさんに読ませてあげて。コーラル、最後は真式に渡してトウテに置いてよ」

「はい。わかりました」


ヴァンは手紙を手に取ると「男の親へ…お父さんかな?」と疑問を口にする。

ミチトは頷いて「そうだね。トゥモはロゼ達が俺をお父さん呼びにかえたからこそ、最後までパパと呼んでくれたよ」と説明をした。


「パパへ、パパならまた術で生まれてきて…、ここにくるよね?手紙を用意する?男の自分…俺は…禁止された術でパパの本の横に名前を書く、ずっと…勝てないけど勝つよ?ですか?」

「悪くない。始めて数日なんだよね。たくさん読むんだ。そして沢山書くんだ。主観を消してフレッシュな文章を心がけるんだ」

コーラルたちはザップと同じことを言うミチトを見て、その先に居るウブツン・ジーノという人間を見た気がしていた。


ミチトは手紙を取ると「アクィ、聞くんだ」と言った。


「パパへ。パパならきっとなんらかの術で蘇って、ここにきて俺の手紙を読むよね。俺は今も禁術を生み出そうとしている。それは俺の禁術をパパの禁術書に書いて、パパの横に名前を残したいから。

何年経っても敵わなかった、…今も敵わないかも知れない。でもいつまでも敵わない壁でいて。俺の目標はパパの奪術術に勝つ事、パパにサンダーデストラクションを乗っ取られない事。

70でパパなんて恥ずかしいかな?

ママは模真式だから蘇れないと思うけど、書くなら俺はパパとママを見たから、パパみたいに沢山の奥さんなんていらない。コードみたいに彼女を沢山作らない。ママみたいな綺麗で高潔な女性を見つけて奥さんにしようとしたら、晩婚になったけどキチンと奥さんが出来たしこの家で仲良くずっと2人きりだ。羨ましいかな?

じゃあ、向こうで会えたらまたね。

トゥモ・スティエット」



「あの子、ずっとミチトにサンダーデストラクションを乗っ取られたことを気にしてる」

「うん。奪術術は死ぬ前だね。トゥモは俺を死なさない為に、万命共有をしようとしたんだ…。俺はそれを邪魔したからだね」


「本当、この家で家族の日をした時は楽しかったわ」

「そうだね。良い思い出だ」


ミチトとアクィが感極まりながら次に向かったのはソリードの家で、今は文化財のような扱いで有志が直したり掃除をしたりしている。

庭先のお墓を見るとミチトの生前より増えていた。


「あれ?師匠と父さんとソリードさんの他に俺の墓が出来てる」

「それはソリード・マートが、存命中にクラシ・マートやメロにこっそりと頼んでいたんだ」


「クラシ君、ヤミアールはやめたんだね」

「ああ、アンタの死後、それまでにマートを名乗ると、アンタをヤミアールとして守れなくなると言ってな、残り数年だったが、自身の親はソリードだと言ってマートを名乗った。まあ知っている人間は少ないが俺はクラシをヤミアールではなくマートで呼んでいる」


その後も引っ越しをしたレイカー家に行き、エスカ、ミトレ、ナハト、ナノカの墓に手を合わせる。

レイカー家はナハトが子沢山だったので今も親戚が暮らしていたが、認識阻害で墓参りを済ませてしまう。


スティエット村の跡地は廟になっていて、「まったく」と呆れたミチトは祖父母の墓に手を合わせた。


クラシの家もまわり、墓参りを済ませたミチトはサルバンに行き、スカロ達の墓にも手を合わせ、ダカンなんかの思い出深い土地を周り最後にトウテに戻った。

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