第6話 ガットゥーのミント家。

剣術大会は大盛況で幕を下ろした。

訓練を受けた剣士達もスティエットの実力が本物と知れて感動していた。


ガットゥーの当主が昼食に呼んでくれたが、時間がないとユーナが断ると、ヴァンも「すみません。ちょっと急ぐんです」と言って丸め込んでしまう。


「貴族の誘いを断るとか…」

「お前は無敵か?」


シャヘルとペリドットのツッコミを無視して、ヴァンは「ユーナ!急ぎの用事って何?」と聞くと、「ウチまで来てくれないか?」とユーナは言う。


「ウチ?トウテ?サミア?」

「いや、コード・スティエットはイイテーロ・ガットゥーに頼んで、ガットゥーに家を建てたんだ」


話を聞くと、国境近くで馬車で2日の距離だったが、「なに、走ればすぐだ」とユーナは言う。



初めは冗談かと思ったコーラル達だったが、ユーナは至って真面目に「ほら、走るぞ」と言い、ヴァンは「コーラル、また引っ張ってねー」とノリノリになっている。


出来なくはないがやりたくはない。

正直今疲れていないのはヘマタイトだけだった。


「あ…頭がおかしいわ」

「基準が無茶苦茶です」

「転移術使おうぜ」

「コーラル、直結転移術をしてくれ」


シャヘルの提案にコーラルは頷いて、「ユーナ、行き先をイメージして、転移術で飛ぶわ」と言うと、ユーナは「便利だな。助かる」と言って生家をイメージすると目の前はホワイトアウトした。


「おお、ここがユーナの家?」

「ああ、父と母が居る。上がってくれ」


ヴァンとユーナが歩く中で、立ち尽くしていたコーラルにシャヘルが「どうした?」と声をかけると、「今の転移術……、術消費が無かったわ」と言う。


「…やはりアイツは術を持っている?」

「ええ、とりあえず着いて行きましょう」



ユーナの父母は、父が真式で母はガットゥーに流れ着いたナー・マステ人だった。


「おお!親戚か、初めましてだな!」

そう出迎えたユーナの父はユーナ以上の体躯に恵まれた大男だった。

ユーナの父はシャヘルを見て「お前さんは久しぶりだな。親父さんは息災か?」と聞いてきた。


「…っ!バレていたのか」

「まあな、親父さんより気配を消すのがうますぎる。不自然なんだよ。まあお前の親父さんもあのガタイでなんで小鳥の気配なのかがわからんがな」


「…あれは趣味だ。なんでか本人はウサギだの小鳥だのになりたがる。ペトラ・ミント、俺はシャヘル・トゥーザー、昨日からシャヘル・スティエットになった」

「おう、よろしくな。お前さんは木だの石だのになり過ぎだ。やるなら親父さんの真似をしてみろ。完璧になるぞ?…ん?トゥーザーか…誰の血筋だ?」


シャヘルはメロの子孫だと名乗ると、「本当にメロは貴い者だな」と言った後で、ヘマタイトからペリドット、コーラルを見て「それにしてもイブにライブにアクィか…勢揃いだな」と言った。


最後にヴァンを見て「それで?君は?」と聞くと、ヴァンは「俺はヴァン!コーラルの友達一号で後はここの皆の友達」と言う。


ヴァンの自己紹介に目を丸くしたペトラは、「うちの偏屈とも友達なのか?」と言ってユーナを指差す。ユーナは面白くなさそうに「指をさすな」と言っている。


「うん。ユーナって凄いよね!色んな話を聞いてみたいんだ」

「話ね、まあお前さんみたいのが案外良いのかもな。親戚達は俺がもてなすからユーナはヴァンとセレナの所に行ってこい。戻りが予定より早いからまだ会える」


ユーナはセレナと名が出た時に殺気を出してペトラを見たが、ペトラはシレッと「行ってこい」とだけ言い、「母さん、茶は地下室まで頼むわ」と言ってコーラル達を連れて地下室へと降りていった。


ユーナの母は「ほら、行って来な。なんだって受け止めなさい。アンタの身体はいつだってセレナを受け止めたんだ。最後だけ逃げるんじゃない」と言うと、ユーナは「わかった」と言って外に出る。追いかけるヴァンにユーナの母は、「ユーナを頼めるかな?」と聞く。


「頼むとかわかんないけど大丈夫。俺は友達の力になるよ!」

ヴァンは「ユーナ!待ってよ!どこ行くの!?」と言いながら追いかけて行った。




地下に降りたコーラル達は目の前の景色に言葉を失った。



単純な地下室かと思ったが、広大な地下空洞が広がっていて息苦しさはない。


「ようこそ。ミント家の訓練場へ」

そう言ったペトラを見て、シャヘルは「どうやって鍛えているかわからなかったが…これか」と漏らす。


「そう、コード・スティエットの願いは、邪魔が入らずに力を思う存分振るえる訓練場。無論天空島なんかも候補に挙げたが、子や孫が通気術を持たない可能性を危惧して、どうせなら巨大な地下空間を用意してそこで思う存分修行に明け暮れる事にした」


この説明にヘマタイトが「ではあなたはコードの血筋なんですか?」と聞くと、ペトラは「んー…混ざってんだよ。俺の爺さんはタシアの孫とシアの孫、でもシアの孫も親の時に従兄弟だったコードの遅い子供を娶った。だから俺の源流はタシアでもシアでもコードでもある」と言った。


コードの子供と聞いて驚いたが、コードが50を超えてからコードに恋をした模式の少女に産んでもらった娘で、記録上は死産した事にしていた。


「なんで…、コードの死期の問題ですね?」

「ああ、その頃には早い連中は孫どころか下手すればひ孫まで居るのに、歳の近い子供なんて居たら面倒になる。ミント家は平気でも周りは黙っていない」


「それにしてもコードは模式を持ったのか…」

「いや、ここはオッハーともナー・マステとも近いからな、オッハーの魔術師が生み出した、不安定で暴走寸前の模式を助けたらミチトのようにモテたらしい」


「なんだよ、うちの爺さんみたいなもんか」

ペリドットが呆れると、話を聞いたペトラは「案外似た者なのかもな。さて?その感じだとイブの血筋は元気そうだ。やるかい?」と言って構えをとった。

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