茉莉花の彼氏

 今日は天気がいいので、昼休みに茉莉花と中庭でお弁当を食べることにした。

 木陰にあるベンチがわたしたちのお気に入りだ。


「あ、空いてるよ!」

 ひそかに人気のある場所なので、空いてないときもある。わたしたちはそそくさとベンチに座った。


「ここんとこ暑くなってきたからじゃない? でも、たまには外で食べたいもんね」

「うん。木陰にいれば涼しいしね」


 膝の上にお弁当を広げて、食べながらお喋りをする。

 ときおり吹く風が気持ちいい。


「このあいだ、クレーンゲームに小太郎の好きなキャラのフィギュアがあったんだけど、あいつ不器用だからなかなか取れなくてさあ。かわいそうだからあたしが技を駆使して取ってあげたの!」

「喜んでた?」

「なんか、複雑そうな顔してた」

「あはは」


 最近なにかと重松くんのことが話題になる。「もしかして付き合ってるの?」って訊いたら、すごい勢いで否定された。

 

「まさか! あたしの好みはシュッとしたイケメンだって知ってるでしょ。あいつなんて、ごついし結構ヘタレだし、とにかく絶対ないから変なこと言わないでよね!」


「ごめんごめん。もう言わないから」

(そうだよね。中学のとき、さんざん好みじゃないって言ってたし)

 


 ***


 夏休みになったので、わたしは事務所に通い、なるべくレッスンを受けるようにしている。


 貴志くんは暑さに弱いので、最近はおうちデートばかりだ。

(涼しくなったら外に連れ出さなきゃ。ただでさえずっと座ってるんだから、身体に良くないよね)


 今日は、茉莉花と二人でアーケードのある商店街に遊びに来た。

 この商店街には、漫画やアニメ、フィギュアなどを取り扱うお店がたくさんあるので、オタクの聖地とも言われている。


「お昼どうする?」

「うーん、ハンバーガーかなあ。葵は?」

「いいよ。わたしもジャンキーなの食べたかったから」


 商店街のハンバーガーショップに入り2階の窓際の席に座った。


「お腹すいたね」

 わたしはポテトを少しつまんでから、テリヤキバーガーにかぶりついた。


(美味しい! 熱々カリカリのポテトにテリヤキバーガーという、しょっぱい甘いの組み合わせが最高!)


 茉莉花はさっきからストローをこねくり回していて、なかなか食べようとしない。お腹空いてないのかな、なんて思ってたら――


「あたし、小太郎と付き合うことになったから」


「ングッ」

 肉が喉につまりそうになり、慌ててジュースで飲み込んだ。


「ゴホゴホッ……え、うそっ! なんで? このまえはあんなに否定してたのに、どうしてそうなったの!?」


「えっとねえ……前に、料理部のみんなで話してるとき『彼氏にするなら友だちの中から選ぶのがいい』って誰かが言ってたでしょ?」


「ああ、うん」

 茉莉花がバレー部の女子マネと揉めたときだ。


「それで、小太郎と付き合ったら楽しいだろうなって思ったんだ。趣味が合うし、ライブやイベントも喜んで一緒に行ってくれるし、だったらもう小太郎が彼氏でいいじゃないって。さんざん趣味じゃないって言っといてあれなんだけど……」


「ううん。わたしが言うのもなんだけど、お似合いだと思うよ。じゃあ、茉莉花から付き合おうって言ったの?」

「ストレートには言いづらいから、追い込んで釣った」

「そこんとこ、詳しく!」


 茉莉花は照れながらも二人の会話を再現してくれた。


 ~*~*~

 

 1週間くらい前に二人でアニメのコラボカフェに行ったとき、「小太郎って今好きなひといる?」って訊いたの。

 いないのは知ってたけど念のためね。


「いねえけど……なんだよ、急に」


「知ってる? 付き合うなら友だちの中から選ぶのがいいんだって」


「なんでだ?」


「異性なのに仲がいいってことは、すごく気が合うってことだからじゃない? あたしたちみたいに」


「なるほど」


「少なくとも、付き合い始めてから『こんなはずじゃなかった!』ってことにはならないよね」


「よく知ってる相手だしな」


「そういうことだから、これからよろしくね」


「ん? どういうことだ?」


「だから、今日から付き合うってことで」


「ちょっと待て! 付き合うって、俺とおまえが?」


「さっきからそう言ってるでしょ」


「いや、おかしいだろ。俺のことはタイプじゃないとか勘違いするなとかさんざん言ってたくせに、なんでだよ!?」


「んー、見た目で選んで失敗しまくったから?」


「口説かれてるはずなのに全然嬉しくねえな! だいたい、今まで友だちだと思ってたのに、急に女として見るとか無理だろ」


「それもそっか……じゃあ、今初めて会ったことにしよう!」

 あたしはパチンと手を叩いた。

「は?」

 小太郎に有無を言わせず話を進める。


「初めまして。青井茉莉花です」


「重松小太郎です……ってなんだよこれ!」


「第一印象はどう思った? ほら、ちゃんとあたしの顔見て」


「わ、わかった。そんなに近づかなくても見えるから! ……あれ? おまえの目、こんなに綺麗だったっけ」


「そう! そういうのもっとちょうだい!」


「よし、わかった。鼻の先がつんとしてて生意気そうだ!」


「はあ?」


「いや、いい意味で! こまっしゃくれた外国の女の子みたいで俺は好きだぞ。ほら、肌もつやつやだし、唇だってぷるっとして形が良いから思わず……」


「思わず?」


「あー、くそっ! わかった。付き合うぞ!」


「うん!」


 ~*~*~


「……とまあ、こんな流れで付き合うことになりました」


「うっひゃあ、重松くんも茉莉花の可愛さにやっと気づいたってわけね! それで、茉莉花はどうなの? 重松くんのこと好きになれそう?」


「まだわかんないけど……あいつ、彼氏になったら前より優しくなって、目つきも妙に甘ったるいの。びっくりだよねー」


 恥ずかしそうに惚気のろける茉莉花。


「そうかそうか。良かったねえ」


「な、なによ。その生暖かい目は!」


「重松くんならきっと茉莉花のこと大事にしてくれるね。真面目だし、優しいから……良かったね、茉莉花」


「ありがとう。なんか恥ずかしいな」


 頬を赤く染める茉莉花を見て、自覚がなかっただけで、とっくに重松くんのことを好きになってたんじゃないかなと思った。




 ――――――――――――――――――


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 近況ノートにも書きましたが、コロナに罹患してしまいましたが、症状がだいぶ落ち着いてきました。ご心配をおかけしました。


 少し長くなりましたが、久しぶりのお話は茉莉花と重松でした!

 (*´ω`*)

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