本編裏側こぼれ話④【職員室と生徒会の裏側で】



【職員室の裏側で】(教師コンビ視点)




「おや。彼女、今日もとても頑張っているようですね~」


 職員室の中からふと見えた光景に、灰色の髪をした青年がのほほんと呟く。若い見た目のため学生にも見えなくはないが、これでも教師だ。

 それを聞いて他の教員たちが何かを言いたそうに口を開きかけるが、大半が考えあぐねて口をつぐむ。


 ……その中で遠慮なく口を開いた男が居た。


「ああ、ガランドールかね? 相変わらず公爵令嬢の訓練は厳しいようだな」


 緑色の鬱陶しいほどに長い髪を雑にくくった男が、資料の束をどさっと机に置きながら述べる。

 特別教諭という普通の教員とは異なった立場を持つこの男は普段自分のテリトリーである研究塔にこもりっぱなしだが、今日はこれを届けるためか珍しくこちらへ出向いたようだ。


 その視線は青年教諭と同じく窓の外……竜巻のような風魔法の中に居ながら、無表情で粛々とアルメラルダ・ミシア・エレクトリアに付き従う少女、ファレリア・ガランドールの姿。

 美しい白金の髪が鳥の巣を通り越して夏の空に鎮座する積乱雲のような有様となっていたり、胸元に下げられた「只今魔法訓練中」の板が暴風に煽られて今にも壊れそうであるが……その表情は微動だにしない。鉄壁である。


「耐えている彼女もすごいですが、アルメラルダさんも相変わらず素晴らしい魔法を使うなぁと感心してしまいます。周囲に一切影響を出さず、ファレリアさん個人にのみ法式が適応されている。非常に繊細な魔法ですね」

「…………。俺が言うのもなんだが、あの状態に関して言う事はないのか?」

「? 熱心な訓練だなぁと……」

「…………。お前のそう言う所、俺は結構好ましく思っているぞ」

「おや、それは嬉しいですねぇ」


 のほほん。のほほん。そんな擬音を飛ばしていそうなこの若き教員は、生徒の事をよく見ているくせに変なところで鈍感である。

 大物なのか繕っているのか、なかなかに判断の難しいところだと特別教諭は心の中で唸った。


「あ、マリーデルさん」


 青年の声に視線を戻せば、アルメラルダをどついて魔法を解除させているマリーデルの姿。その後なにやらファレリア・ガランドールを挟んでアルメラルダときゃんきゃん言い争っているようだが、自クラス生徒の姿に青年はほにゃりと表情を緩める。


「優しいですよねぇ、マリーデルさん。訓練と言っても、友人のことが心配だったのでしょう。ふふっ、そういう僕もこの間ですね。彼女に心配してもらって、手伝ってもらったりしましてね。相手が誰であっても、年齢や立場に関係なく人自身を見て気遣い、行動できる子です。素敵ですね」

「一人の生徒をそんなに持ち上げて良いものか?」

「あははっ。もう、いじわる言わないでください。もちろん僕は僕の生徒がみんな大好きですよ? でもどうやら僕も星啓の魔女の補佐官候補らしいので。だから先生、という立場を抜きにして……少しくらい個人の感想をこぼしたって許されますよ。ちょっと贔屓気味でもね」

「ひとつ聞くが、それは俺への牽制も兼ねているのかね?」

「? それはちょっと分からないのですけど……牽制、とは?」

「いや、いい。気にするな」


 なかなか食えない男だな、と考えつつ。




 青年教諭と特別教諭は、現在学園の注目を最も集める女生徒三人の姦しいさまを呑気に眺めるのだった。



 










【生徒会の裏側で】(生徒会長視点)




「マリーデルって、なにが好き?」

「なに、とは具体的にはなんですか」

「んー……料理の付け合わせ、とか?」

「そこは単純に好きな料理とかでいいのでは? 何故付け合わせに絞ったんですか」

「質問、してるのはこっち……さっきから、きかれてばっかり……」

「あなた様が微妙で曖昧な質問ばかりするからですよ。というかそもそもですね? 私に聞かないで本人に聞けばよいのです」

「ちょっと……はずかしい、から」

「いきなり可愛いのやめてくれます?」


「あらら……」


 探していた人物が最近よく懐いている少女にダルがらみしているのを見つけると、青年はため息をつきながらそれを引き剥がした。


「おいおい、またか? ったく」

「助かります、会長」

「いつもごめんなぁ」


 無表情ながらほっとしたような雰囲気。反して回収したピンク髪は不満そうだ。

 頼むから後輩に迷惑をかけないでほしい。


「別に、迷惑かけてるわけじゃない……」

「かけてるだろ。助かるって言ってただろ」

「ファレリア……心、せまい……」

「自然に人のせいにしてきますよね、この人」


 生徒会長を務める青年は、同じ生徒会役員であるピンク髪がこの無表情の令嬢にそこそこ懐いているのは察している。令嬢側も迷惑そうにしながらもなかなかに甘いのは、律儀に質問に答えていることからうかがい知れていた。


 このピンク髪が現在最も懐いているのは庶民の出でありながらその特異な資質と元来の勤勉さで注目を集めるマリーデル・アリスティだが、直接彼女と接するのが恥ずかしいのかよく間にこの少女を挟もうとする。

 少女……ファレリアはもともとアルメラルダの取り巻きだが、最近はよくマリーデルとも行動を共にしているのだ。


「あら、会長ではありませんの」

「やっ、アルメラルダ」


 すぐ真横の資料室から出て来た同じ生徒会役員でもある少女に、青年は片手をあげて挨拶する。

 珍しくファレリアが一人で居ると思ったら、資料室に入っていたアルメラルダを待っていただけらしい。


「頼んでいた仕事に関しての資料か? 悪いな。運ぶの手伝う」

「ふふっ。それでは頼まれた意味がないではありませんの。会長には別の仕事がおありでしょう? どうぞ、お気になさらず」

「そうか……助かる」


 一部からはそのきつい性格から恐れられ、嫌われることもあるこの公爵令嬢。しかしその実、性格はひどく真面目だ。生徒会という同一の組織で仕事をした者は皆、それを理解しているだろう。

 最近アルメラルダの推薦で入ったマリーデル・アリスティも同じくだ。



 アルメラルダとマリーデル。



 どちらが次代の星啓の魔女として選ばれるのかはまだ分からないが、彼女らの人となりと実力を知る青年としてはどちらが選ばれてもこの国は安泰だろうと考えている。



(俺はちょっとばかし、マリーデルよりアルメラルダを推しているがな)




 そうクスリと笑い、青年はピンク髪の同僚を引きずって生徒会室へと戻るのだった。



「改めて見ると会長って色男奔放キャラがあのピンク髪に完全に封殺されてますね……面倒見の良さしか無いというか、保護者。お母さんかな?」

「? なにを言っていますのファレリア」

「いえ、なんでもないッス」



 戻る途中、不本意な噂話でくしゃみをしたのはご愛嬌。

 






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