本編とはあまり関係のないこぼれ話×2

【十二人って多くない?】



 ある日、フォートくんがぐったりと力尽きていた。その眼は死んだ魚のように濁っている。


「大丈夫?」

「じゃない」


 べたっと床に倒れ伏したフォートくんをつついてみると、ばっと起き上がって私に詰め寄ってきた。


「ねえ!! 十二人って多くない!? 多いよね!! しかもあいつらすぐにネガるし!! いい奴らではあるんだけど重いんだよいい加減!!」


 ネガるときたか。順調に我々の前世の言葉を使いこなしていますね、とアラタさんを見れば目をそらされた。おいおい照れ屋さんですね。


 それにしても、どうしようか。これ。


「あー。その時期きちゃったか。ね。重いよね。でも乙女ゲーってそういうもんだから……」

「わかるよ? 色々大変な事情をそれぞれが抱えているのは。でも正直姉さんの代わりに女として学園に通って面倒くせぇ野郎どものケアしてる僕が一番大変じゃない!? ねえ!」

「そ、そうですね」


 面倒くせぇって言っちゃったよ。


 乙女ゲームの攻略キャラだけに限られないと思うんだけど、人ってそれぞれ色々な問題や闇を抱えている。そういったものに関わるのはひどく大変で、しかも相手は十二人。ストレスを溜めるなという方が無理だろう。

 でも問題込みで向き合わないと、イベントは進まず表面的な付き合いしか出来なくなるのだ。

 よって回避は不可能。


「……よ、よしよし」

「具体的な解決策の無い慰めなんていらない」


 頭を撫でてみたがパンっと叩き落された。失礼しましたごめんなさい。調子こきました。


 ……気まずい。話題をそらすか。


「そういえばアラタさん。攻略対象十二人って、恋愛シミュレーションの中でも多い方ですよね?」

「ん……ああ」

「元ネタが干支ってマジですか?」

「それはマジ」


 乗り気じゃなさそうだったけど話題が分かると食いついてきた。安定のオタク感に安心する。


「本当なんだ。いや、ファンタジーの世界観とミスマッチすぎて半信半疑だったんですよね」

「わかる。星啓の魔女ってキーワードがあるなら素直に十二星座にしとけよって話だよな」

「それか和製ファンタジーにするとか」

「それな」

「僕のストレスが一切解消されないまま前世トークで盛り上がるのやめてくれない?」

「「すみません」」



 その後、とりあえず中間お疲れ様会でもしようかということになった。こういうの、大事よね。


 フォートくんになにか欲しいものは無いかと聞いたら「肉」と返ってきたので、私とアラタさんそろって微笑ましいものを見守る顔になってしまったのは余談である。その後「孫を見るような目やめろ」とフォートくんに怒られたのだけど。

 でも私達、実際の年齢はともかく中身が中身だからさ……。若い男の子が肉食べたいって言ったら、心行くまでたらふく食えぃッ! ってなってしまうのは当然なんだよな。いっぱい食べさせたくなる。


 ともかくそんな可愛らしい要求に、私たちは全力で応えた。

 私は直接肉の買い付けは出来ないから購入自体はアラタさんに頼んだけど、実家の料理人にいい仕入れ先を聞いて極上の肉を手に入れる一助となってやりましたよ……! 手紙でなんて聞くかはすっごく迷いましたけど!

 

 そうして手に入れた肉で、私たちは隔離結界の中で焼き肉をしフォートくんをねぎらったのだった。




 翌日、こっそり場所を借りた庭園に焼き肉の残り香が漂っていたのはご愛嬌である。










【寄り添うは黄金の白金】



「お、めずらしい」


 アルメラルダ様に呼ばれて自室を訪ねると、ソファーにもたれかかるようにしてアルメラルダ様が眠っていた。

 帰ってもいいかなぁと思ったものの、メイドさんに目で訴えられてしぶしぶ起きるのを待つことになった。お出しされたお茶とお菓子が美味しい。


(疲れてるっぽいな……)


 ふとアルメラルダ様の顔を覗き込めば、化粧で隠しているがうっすらと目の下に隈が見える。

 体調管理も出来てこその貴族! と豪語しているアルメラルダ様にしては珍しい。なにか眠れなくなるような心配事でもあるのだろうか。


「……ふぁれりあ」

「ぅお」


 寝言で呼ばれた。え、何。私アルメラルダ様の夢の中でもしばかれてるの?

 けどアルメラルダ様の寝顔はどこか幼げで、まるで迷子になった子供のようだ。うんうんと唸ってもいる。


 なんとなくその手を握れば椅子にもたれていた体が横にずり落ちてきて、私の肩を通過してトスンっと膝に頭が乗る。

 ばらっと、アルメラルダ様の豪奢な髪が黄金のひざ掛けのように広がった。


「……」


 ゆっくり、安心させるように。その艶やかな黄金の髪を整え撫でて、一定のリズムで肩のあたりをぽんっぽんっと叩く。

 気づけばうめくような声はなりを潜め、穏やかな寝息が桜色の唇から規則正しく漏れていた。



「いつもこれくらい大人しければな~って思うけど……それはそれで、アルメラルダ様じゃないか」


 嘆息し、目を細める。



 いつの間にか私まで眠ってしまっていたようで、起こされた時は夜だった。

 アルメラルダ様に何故起こさなかったのかと叱責されてしまったが、その顔から疲労の色は取れていたので……まあ、良しとしましょう。









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